第38話 導きの光
出雲での探索を終え、舞子、鳴海、奈緒の三人は東へと向かう新幹線に乗っていました。イザナミの「愛されたい」「忘れ去られたくない」「報われてほしかった」という切なる「願い」を深く感じ取ったことで、三人の心には、その魂を真に癒やすためには、**根源的な「光の力」**が必要であるという確信が芽生えていました。
「イザナミ様の怨念の根源には、深い悲しみと、そして私たちと同じような、満たされなかった願いがあったのね」舞子は車窓を流れる景色を見つめながら呟きました。「この願いを癒やすには、単に闇を封じるだけでは足りない。黄泉の穢れを浄化し、魂に真の安寧をもたらすには、最高位の光の慈悲が必要なんだと思う」
鳴海は舞子の言葉に頷き、タブレットで古文書のデータと、これまで集めた神話や伝承の情報を照らし合わせていました。
「これまで私たちが追ってきた『黒い影』は、イザナミ様の怨念を核に、人々の負の感情が絡みつき、増幅されてきた存在。出雲での調査で、イザナミ様自身の『願い』の深さがわかったわ。でも、その願いが悲劇的な形で歪んでしまった原因、つまり『火の神』を生んだことによる苦しみと、イザナギ様との決別という、根源的な『闇』を浄化するには、**『闇』を凌駕する『光』**が必要だわ」
鳴海はタブレットの画面を舞子に見せました。「古文書にはこう記されているの。『陰と陽、二つの力が結びし時、真の光が導かれ、魂は癒える』と。そして、別の記述では『日輪の神、その慈悲は全ての闇を照らし、根源の魂を救う』とね」
舞子の瞳に、確かな光が宿りました。「『日輪の神』…つまり、アマテラスオオミカミ様のことね。そして、この地の『光』の根源、それは伊勢神宮に他ならない。イザナミ様の魂を救うには、まさにその場所、日本で最も神聖な『光』の聖地へと向かう必要があるんだわ」
奈緒は、二人の会話を静かに聞いていましたが、その顔にはどこか遠くを見つめるような表情が浮かんでいました。彼女の胸の奥では、出雲で感じたイザナミの感情と、自身の孤独が複雑に絡み合い、それが新たな「予感」となって脈打っていました。
「私も、正直…どうして私なのか、まだよく分からないんです」奈緒はぽつりと呟きました。「でも、イザナミ様の『愛されたい』『忘れ去られたくない』という願い…それは、私自身が感じてきた孤独と、とてもよく似ているんです。巫女としての力がなくても、ずっと誰かに認めてほしかった、必要とされたかった…そんな気持ちが」
舞子は奈緒の言葉に優しく頷きました。
「奈緒、あなたのその共感する力が、何よりも重要なのよ。イザナミ様の痛みを、誰よりも深く理解し、その魂に光を届けられるのは、あなたなのかもしれない。アマテラスオオミカミ様は、単に強い力を持つ者を選ぶのではなく、最も純粋な心で、苦しむ魂に寄り添える者を求めていらっしゃるのかもしれないわね」
新幹線が快調に走り続ける中、奈緒の予感はさらに強まっていきました。それは具体的なビジョンではなく、まるで内なる光が呼応するように、彼女の心に温かい波動が満ちていく感覚でした。イザナミの深い悲しみ、そして「黒い影」の根源にあるであろう「歪み」を浄化するためには、自分自身の孤独と向き合い、その中で見出した**「光」を、イザナミへと届ける**必要がある…。
伊勢神宮への道のりは、単なる移動ではなく、奈緒にとって、自身の内面と向き合い、そして来るべき大いなる使命を受け入れるための、魂の旅となっていきました。窓の外には、日本の美しい風景が広がっていますが、三人の心は、古の神々の息吹と、来るべき最終決戦の予感で満たされていました。
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