第33話 祠の奥
井戸の封印を一時的に強化した貞子と栞は、次に祠へと向かいました。夜の闇に包まれた祠は、昼間にも増して厳かな気配を漂わせています。鳥居をくぐり、朽ちかけた祠の前に立つと、井戸で感じた「囁き」とは異なる、しかし確かにイザナミの感情と共鳴するような重苦しい空気が二人を包み込みました。
「貞子さん、巻物に、この祠にはイザナミの真の『願い』への手がかりが隠されているかもしれない、と書かれています」と栞は言います。
貞子は「ええ、この祠はただの信仰の対象ではない。イザナミが人々に何を伝えたいのか、その本質がここに封じられているのかもしれない」と応じ、祠の石碑を改めて見つめました。石碑には苔が生え、風化が進んでいましたが、先ほど栞が拭った場所には「悲しみを抱きしめし乙女、その名はイザナミ」という文字が鮮明に浮かび上がっています。
栞はさらに巻物を読み進めます。「…『真なる名』は、闇に囚われし魂の深淵にあり、その『願い』と共に現れる…」。
貞子は目を閉じ、自身の力を集中させました。すると、祠の奥から微かな、しかし力強い波動が感じられます。それは怨念とは異なる、純粋な悲しみと、何かを伝えようとする切なる「願い」の波動でした。
「栞さん、この祠の奥に、何か隠された空間があるはずだわ。この波動は、そこから来ている」と貞子は告げました。
二人は祠の周囲を丁寧に調べ始めました。祠の裏手に回り込んだ時、貞子の手が不意に、石造りの壁の一部に触れました。その瞬間、壁がわずかに内側に沈み込み、小さな隙間が現れました。隙間の奥は、漆黒の闇に包まれています。
「ここよ!」と貞子は確信し、栞と共にその隙間から祠の奥へと足を踏み入れました。内部はひんやりとした空気に満ち、埃っぽい匂いが鼻をつきます。貞子が持っていた懐中電灯の光をかざすと、そこには古びた木箱が一つ、静かに置かれていました。木箱には、見たことのない文様が彫り込まれています。
「これが…イザナミの『願い』の手がかり?」栞は息を呑んで木箱を見つめました。
貞子は静かに木箱に手を伸ばし、その表面に触れました。すると、木箱から微かな光が放たれ、同時に彼女の心に直接語りかけるような、女性の悲しい声が響き渡りました。「…私は…ただ…愛されたかった…」
それは、イザナミの真の「願い」の片鱗だった。貞子と栞は、その声に耳を傾けながら、木箱を開ける覚悟を固めました。
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