第30話 新たな旅立ち


猫島の港には、朝日に照らされたフェリーが静かに停泊していた。舞子、鳴海、奈緒の三人は、その船に乗り込むべく、貞子と栞に別れを告げていた。

「猫島のことは任せたわ、貞子、栞。何かあったらすぐに連絡して」。舞子は真剣な眼差しで二人を見つめた。

貞子は力強く頷いた。「舞子さんも、出雲での調査、気をつけてください。私たちはここで、井戸と祠を守り抜きます」。

栞は舞子の手を握り、笑顔で言った。「曾祖母様の巻物の続きも、頑張って読み解きますね!」。

奈緒は、どこか不安げな表情をしていたが、鳴海がそっとその手を握り、「大丈夫。私たちが一緒よ」と囁いた。奈緒は、鳴海の言葉に少しだけ安心したように頷いた。

フェリーの汽笛が鳴り響き、ゆっくりと船が岸壁を離れていく。舞子たちはデッキから、手を振る貞子と栞の姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

出雲行きの電車の中、三人は静かに今回の旅の目的を再確認していた。

「イザナミの怨念が、火の神への恨みと結びついている可能性…」。舞子は呟いた。「そして、それが『黒い影』の本質だとしたら、私たちが探すべきは、その恨みを晴らすための『真なる名』、あるいは、イザナミの本質的な『願い』を呼び覚ます手がかりになるはず」。

鳴海は資料を広げながら言った。「出雲大社は、大国主命を祀る場所ですが、その周囲にはイザナミにまつわる小さな祠や伝承が残っている場所がいくつかあります。特に、火に関わる神や伝承に焦点を当てて調査を進めましょう」。

奈緒は、少し緊張した面持ちで窓の外を眺めていた。しかし、同時に微かな期待も抱いていた。自分の持つ人の感情を読み取る力が、この大きな謎を解く鍵になるかもしれない。

「イザナミの悲しみや恨み…私がそれを感じ取ることができれば、きっと何かが分かるはず」。奈緒は静かにそう決意していた。

三人の巫女の力が、それぞれの地で、それぞれの方法で、強大な『黒い影』に立ち向かおうとしていた。

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