第29話 火の神の呪縛


舞子の言葉に、一同は静かに考え込んだ。「イザナミの本質的な『願い』を呼び覚ます…」それは、単なる封印とは異なる、根源的な解決策のように思われた。

その時、舞子の脳裏に一つの可能性が閃いた。

「イザナミの死因は、火の神を生んだことによる火傷でしたね…」。舞子は静かに切り出した。「もし『黒い影』がイザナミの怨念だとしたら、彼女はその火の神を恨んでいる可能性もある。だとすれば、火を司る場所や、火にまつわる伝承に手がかりがあるかもしれません」。

鳴海が頷いた。「なるほど…出雲大社は確かに大国主命を祀る場所ですが、イザナミに連なる神々の中には、火の神に関連する伝承を持つ神もいるかもしれません。以前の調査では、そこから負の感情の残滓を感じ取っていましたが、当時はそれが何なのかまでは分かりませんでした。しかし、もし『黒い影』がイザナミの怨念と結びついているのなら、出雲の地にもその手掛かりがあるかもしれません」。

奈緒もまた、深く頷いた。「私も出雲で、何か大きな力が渦巻いているのを感じました。あの時感じたのは、ただの怨念だけじゃない、もっと複雑な『願い』のようなものも混じっていた気がします」。

舞子は腕を組み、考えを巡らせた。「猫島の井戸に凝り固まった『黒い影』と、狗ヶ岳で感じた『歪んだ門』、そして出雲大社に眠る力。これら全てが、イザナミという一つの存在に、そしてその火の神への恨みに繋がっているのかもしれない」。

そして、舞子は皆の顔を順に見回し、静かに告げた。「では、ここで二手に分かれましょう。私と鳴海、奈緒は、出雲大社へ向かい、イザナミの本質的な『願い』、つまり『真なる名』の手がかり、そして火の神への恨みに関する情報を探します。猫島の井戸の封印強化と、ここにある祠の調査は、貞子と栞に任せたい」。

貞子は毅然とした表情で答えた。「承知しました。猫島の井戸は、私たちでしっかりと守ります」。

栞もまた、強く頷いた。「曾祖母様の巻物も、まだ読み解ける部分があるかもしれません。それに、古文書を読み解くのは私の役目です」。

奈緒は、不安と期待が入り混じった表情で舞子を見上げた。「私…私にできることがあるのなら、何でもします」。

舞子は奈緒の肩を優しく叩いた。「奈緒の持つ、人の感情を読み取る力こそが、イザナミの本質的な『願い』を探る鍵になるはずよ。鳴海も、出雲での調査経験がある。私たち三人が協力すれば、きっと手がかりを見つけられる」。

鳴海は、出雲での新たな調査に気持ちを引き締めていた。猫島に残る貞子と栞も、それぞれの使命を胸に、静かに頷いていた。それぞれの場所で、新たな戦いが始まろうとしていた。姉妹たちの絆が、今、試されようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る