第28話 祠の真実と「イザナミ」


祠への道は、手入れがされておらず、茨や低木が生い茂り足元も悪かった。舞子を先頭に、鳴海、貞子、栞、そして奈緒の順で進む。井戸から離れても島の至る所から負のエネルギーが感じられ、空気が重い。特に奈緒は、その感情の揺らぎを敏感に感じ取り、顔色が悪かった。

しばらく進むと、苔むした小さな鳥居が見えてきた。その奥には、風雨に晒され朽ちかけた小さな祠があった。祠の周りには古びた石碑がいくつか倒れており、そのうちの一つには判読しにくい文字が刻まれていた。栞は丁寧に苔を拭い取っていく。その傍らで、奈緒は祠から発せられる井戸とはまた違う、静かで深い「恨み」と「願い」が入り混じった感情に耳を澄ませていた。「…なぜ…」「…忘れられる…」といった感情の断片が、奈緒の心に直接語りかけてくる。

栞が苔を拭い終えると、石碑には「『…悲しみを抱きしめし乙女、その名は…』そして、ここに記された文字は…『イザナミ』」と浮かび上がった。舞子は驚き、奈緒は祠から聞こえる「恨み」と「願い」の感情が、「イザナミ」という言葉に強く反応しているのを感じ取った。「この感情…まるで、神話のイザナミが感じた苦しみと似ているわ…」。貞子は「まさか…あの『黒い影』の正体が、イザナミの怨念だというの?」と問う。舞子は巻物から、「黒い影」がこの地の負の感情が凝り固まって生まれたものであり、時に人々の信仰や伝承と結びつき強大な力を持つことを説明する。栞は、この地の「神隠し」や「囁き」といった現象が、イザナミの神話に対する人々の恐怖や悲しみが「黒い影」を増幅させている可能性を指摘する。舞子は「だとすれば、『真なる名』とは、イザナミの本質的な『願い』を呼び覚ますことなのかもしれない…」と、その可能性に思いを馳せていた。

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