第25話 再開
博多港からフェリーに乗り込み、舞子と鳴海は猫島へと急いでいた。揺れる船内でも、二人の間に交わされる言葉は途切れなかった。舞子は鳴海の足の具合を気遣いながら、これまでの経緯をさらに詳しく聞いた。奈緒が感じ取る感情の波、それが如何に彼女を苦しめてきたか、そして巫女の力を持たないことへの焦燥感。鳴海の言葉から、舞子は初めて奈緒の心の奥底に触れたような気がした。
「奈緒は、私たちには想像できないほどの孤独を感じてきたのかもしれないわね」
舞子は静かに呟いた。自分もまた、巫女としての宿命と向き合う中で、誰にも言えない苦しみを抱えてきた。奈緒の気持ちが痛いほど理解できた。
一方、鳴海は舞子の言葉に、今まで抱えていた重荷が少しだけ軽くなったように感じていた。舞子と話すことで、奈緒の抱える問題がより明確になり、解決の糸口が見え始めたような気がしたのだ。
「ええ……でも、あなたと栞がいてくれるなら、きっと奈緒も変われるはずよ」
鳴海の言葉に、舞子は力強く頷いた。
猫島の港に到着すると、穏やかなはずの島には、どこか張り詰めた空気が漂っていた。観光客の姿はまばらで、地元の人々も不安そうな表情で道を急いでいる。
「神隠し……やっぱり、これまでの噂と繋がっているのかしら」
舞子は、港に聞こえてくる人々のざわめきに耳を傾けながら呟いた。
民宿の場所は、栞からの電話で聞いていた。二人は急ぎ足で、民宿へと向かう。瓦屋根の古い家々が軒を連ねる細い路地を抜け、海風が心地よい坂道を上ると、目的の民宿が見えてきた。窓から漏れる明かりが、暗くなり始めた空の下で温かく輝いている。
玄関の引き戸を開けると、温かい灯りと共に、話し声が聞こえてきた。奥の部屋から、貞子、栞、そして奈緒の姿が見えた。奈緒は、少し顔色は悪いものの、落ち着いた様子で貞子と栞の間に座っていた。
「貞子ちゃん!栞!奈緒!」
舞子の声に、三人は一斉に顔を上げた。最初に駆け寄ってきたのは栞だった。
「舞子!鳴海さん!無事でよかった!」
栞は舞子の腕に抱きつき、安堵の息を漏らした。その傍らで、貞子は少しだけ戸惑った表情を浮かべながらも、舞子と鳴海を見つめていた。そして、奈緒は、舞子と鳴海を見上げて、小さく「お姉ちゃん……」と呟いた。その声には、安堵と、少しの照れが混じっていた。
鳴海は、足を引きずりながらも、奈緒のそばに歩み寄った。奈緒の髪を優しく撫で、その無事を確認するように抱きしめる。
「奈緒……本当に心配したわ」
鳴海の言葉に、奈緒は静かに頷いた。
舞子は貞子に視線を向け、小さく頭を下げた。
「貞子ちゃん、本当にありがとう。奈緒を助けてくれて……」
貞子は、はにかむように首を振った。
「いえ、私も、奈緒ちゃんの力で、あの井戸の異変に気づくことができましたから」
全員が揃い、少しだけ安心した空気が流れる。しかし、猫島の古井戸から発せられる不穏な気配は、決して消え去ったわけではない。この再会は、新たな戦いの始まりを告げるものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます