第24話 姉妹の絆


博多行きの電車は、揺れる車窓に夕焼けを映しながら進んでいた。舞子は、隣で座席に深く身を沈めている鳴海の足の具合を案じながらも、奈緒のことが気になって仕方なかった。

「鳴海さん、足は大丈夫?無理しないで」

舞子の気遣いに、鳴海はゆっくりと首を振った。

「ええ、大丈夫。それより、奈緒が本当に無事だと分かって、心が軽くなったわ。あなたがいてくれて、本当に助かった」

鳴海の言葉に、舞子は小さく微笑んだ。そして、少し間を置いて尋ねた。

「あの……奈緒ちゃんのこと、もう少し聞かせてもらえるかしら?幼い頃から、どんな子だったの?」

鳴海は、舞子の問いに、少し遠い目をして語り始めた。

「奈緒はね……小さい頃から、ちょっと変わった子だったわ。人の感情にすごく敏感で、私には分からないようなことも、感じ取ってしまうみたいで。だから、周りから理解されずに、孤独を感じることも多かった。巫女の力を持つ私ばかりが注目されて、奈緒はいつも影に隠れてしまっていたの」

鳴海の言葉は、奈緒が抱えていたであろう苦悩を鮮明に伝えた。特別な力を持たないことへの焦燥感、そして誰にも理解されない孤独。それが、井戸の悲しみに共鳴した原因なのかもしれない。

「そう……」

舞子は静かに相槌を打った。自身もまた、巫女としての力と責任に苦しんできた。奈緒の孤独な心情が、痛いほど理解できた。

「だから、あの時、サービスエリアで貞子さんの抜け殻を感じた時、奈緒は強い共感を覚えたんだと思う。自分と同じ、誰にも理解されない悲しみと虚しさを感じたからこそ、その力を利用しようとまで……」

鳴海の言葉に、舞子は顔を曇らせた。水野姉妹が貞子の抜け殻の力を利用しようと企んでいたことは、未だに舞子の心にわだかまりとして残っていた。

「でも、雫さんは、奈緒のそんな性質を気にかけてくれていたのね?」

舞子の問いに、鳴海は頷いた。

「ええ。叔母さんが奈緒を心配して、私たち水野家のこと、特に奈緒のことを気にかけているって言っていたわ。だから、今回の失踪も、雫さんが奈緒を追って行ったんだと思う」

舞子の脳裏に、狗ヶ岳で奈緒を必死に探していた雫の姿が浮かんだ。やはり、奈緒の失踪に雫が関わっている可能性が高い。

一方、猫島では、貞子、栞、奈緒の三人が井戸から少し離れた場所にある民宿を探し当てていた。井戸から漂う不穏な気配は未だに強く、とても近くにいられる状態ではなかったのだ。

「とりあえず、ここで舞子さんたちを待ちましょう」

栞がそう提案し、奈緒は黙って頷いた。貞子は、民宿の窓から見える古井戸の方角をじっと見つめていた。夕闇が迫り、井戸の周囲には、より一層深い影が落ちていた。

「貞子さん、もう大丈夫よ」

栞が優しく声をかけると、貞子はハッとしたように振り返った。

「ええ……。でも、あの井戸から感じる気配が、これまでとは違う気がするの。もっと、強くて、深くて……まるで、何かが目覚めたような」

貞子の言葉に、栞と奈緒は顔を見合わせた。貞子の言葉は、奈緒が井戸に触れた時に感じた「何か別の、より大きく、重い力」という感覚と完全に一致していた。

民宿の明かりが、静かな島にぽつりと灯る。遠く離れた場所で、それぞれの不安と希望を胸に、4人の姉妹の運命の糸が、再び強く結びつき始めていた。


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