第21話 告白

奈緒の告白に、貞子と栞は驚きを隠せなかった。奈緒は顔を伏せ、消え入りそうな声で、なぜ自分がここにいるのか、そして井戸に触れたことで感じた強烈な虚しさと悲しみ、そしてそれと共鳴した自身の孤独について語った。

「私には、巫女の力がないから……。舞子さんや姉さんみたいに、誰かを助けることもできない。だから、せめて……自分にできることを、って」

奈緒の言葉は、自己の無力感と、それゆえに特別な力を求める焦燥感を露わにしていた。サービスエリアで感じた貞子の抜け殻の悲しみが、自身の孤独と重なり、それが古井戸へと導いたのだという。そして、井戸に触れた瞬間、封印されたはずの強大な負の感情と、何か別の大きな力が井戸の奥で蠢いているのを感じ取ったこと、その感情が自分の孤独を肯定するように語りかけてきたことも打ち明けた。

「……あの声は、私の心の中に直接響いてきて……まるで、私を探していたみたいに……」

奈緒の告白は、衝撃的なものだった。彼女が井戸の封印を意図せず弱めてしまった可能性、そして貞子の抜け殻だけでなく、さらに根深い「黒い影」が再び活動を始めた可能性を示唆していた。

貞子は静かに奈緒の手を握った。

「奈緒ちゃん……辛かったね。でも、あなたは一人じゃない。あなたの力は、確かに私たちをここまで導いてくれた」

貞子の言葉に、奈緒は顔を上げた。その目には、まだ不安の色が残っていたが、同時に微かな希望の光が宿っていた。

栞は冷静に状況を整理し始めた。

「奈緒ちゃんが井戸に触れたことで、一時的に封印が弱まったのは確かね。でも、完全に解けたわけじゃない。そして、奈緒ちゃんの『人の感情を読み取る力』が、この井戸に封じられていた負の感情に共鳴して、その奥に潜む『黒い影』の一部を引き寄せてしまったのかもしれないわ」

まさしく、奈緒の言う「良かれ悪かれ結界を打ち消す力」が、この事態を引き起こしたのだ。しかし、その力は同時に、奈緒自身にしか感じ取れない「黒い影」の存在とその性質の一端を明らかにした。

貞子は改めて井戸を見つめた。あの時、自身と一つになったはずの負の感情。それが、奈緒の感情と共鳴し、再び表に出てこようとしている。いや、それだけではない。奈緒が感じ取った「何か別の、より大きく、重い力」の正体は、羽田雫が追っていた「黒い影」、すなわち「貞子の怨念を操るさらに根深い存在」に違いない。

「舞子さんにも、連絡しないと」

貞子はそう呟き、深く息を吐いた。再び動き出した「黒い影」。奈緒の特別な力は、その存在を明確にしたが、同時に新たな危機をもたらしていた。猫島の古井戸から、新たな戦いが始まろうとしていた。

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