第15話 託された願いと歪み
雫は、鳴海と奈緒の間に漂う重い空気を和らげるかのように、舞子と栞の幼少期から現在までの話を、優しい声で語り始めた。
「舞子と栞は、本当に仲の良い姉妹だったのよ。小さい頃は、いつも二人でくっついて遊んでいてね。栞が舞子の後をちょこちょこ追いかけていた姿は、本当にかわいかったわ。大島に来てからも、二人でよく海辺を散歩したり、星空を眺めたりしていたわね。舞子は、小さい頃から責任感が強くて、いつも妹の栞を守ろうとしていた。巫女としての力に目覚めてからは、その重責に苦しむこともあったけれど、それでも決して諦めなかった。全ては、大切な人たちを守るためって、いつも言っていたわ」
雫の声には、実の姉が妹たちを心から想う愛情が溢れていた。鳴海は、話を聞くうちに、これまで漠然と感じていた舞子への親近感が、確かなものへと変わっていくのを感じていた。彼女の心の中には、まだ見ぬ姉への敬愛と、その力になりたいという純粋な願いが芽生えていた。
「舞子は、本当に強い子よ。でも、一人で全てを抱え込もうとする癖があるから、これからは、鳴海、あなたが舞子の力になってあげてほしい」
雫は、その言葉を鳴海に伝えるとき、彼女の瞳はまっすぐに鳴海を見つめていた。そのまなざしは、鳴海にのみ向けられているように、奈緒には感じられた。
奈緒は、膝の上に置いた両手をぎゅっと握りしめた。
「また私だけだ。巫女としての力もないし、舞子の力にもなれない。いつも鳴海ばかり期待されて、私は……」
奈緒の心の中で、かつての孤独な感情が繰り返し響いてくる。特別な力を何も持たない自分。鳴海の持つ不思議な力に気づいた時から、奈緒はいつも自分だけが取り残されているような感覚を覚えていた。沖ノ島で影に憑りつかれた時も、結局は舞子と雫の力に救われた。自分は、いつも誰かに守られるばかりで、何もできない。
その感情は、ゆっくりと、しかし確実に奈緒の心を蝕んでいく。無表情な顔で、奈緒は立ち上がった。
「私、ちょっとコンビニに行ってくる」
奈緒はそう一言だけ言って、リビングを出て行った。その背中には、雫と鳴海には感じ取れない、深い孤独と苛立ちが滲んでいた。
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