第2話 わたくしは、言って置かなければならないことがありますの。

前に進み出ます。


ええ、言って置かなければならないことがあるからです。


この国を出るにあたって、言わなければならない事があるのです。


わたくしは前に進み出て、みな様の前で宣言しますわ。


よく聞いて下さいませ。


「コックス第二王子様。わたくしとの婚約の申し込みは無かった事にして下さいませ。」

わたくしは、この国の第二王子との婚約の申し込みを断ることに致しました。 


ええ、こんなお馬鹿様な王太子のいる国に政略結婚でも嫁ぎたくありませんわ。


あんなお馬鹿様なお二人を、お兄様ともお姉様とも呼びたくはありません。


ましてや、あのお馬鹿様なお二人がこの国の未来の国王陛下や王妃になられるなんて。


この国に未来はありませんわ。


「な、何故ですか? ロゼッタ王女。」


あら、あら。

コックス王子様は、狼狽えた顔をなさっておられますわ。


周りの者達もざわめいておられますわ。


先程は静にしておられましたのに。


「僕に何か、粗相でも? 」

まあ確かに驚かれるのは仕方がありませんわ。


この舞踏会で婚約を発表する予定でしたもの。


わたくしも、そのつもりでしたのよ。この国にディザート国とわたくしの国ソムリエール国の同盟関係を強固にするための婚姻ですもの。


政略結婚ですが仕方がありませんわ、王女として生まれたのですから国の利益の為の結婚は当然ですわ。


「お分かりになりませんか? コックス王子。」

「先程までは、婚姻に乗る気ではありませんでしたか? 」

「ええ、先程までは。」

ほんとうに分かっておられないようですわ。


この国の王子に対する教育はどうなっているのでしょう。


「今日、わたくしたちはこの場で婚約を発表する予定でしたわ。

でも、王太子様に先を越されてしまいましたわ。」

「それが? 」


ああ、やはり分かっておられないようですわ。


よかったですわ、婚約を発表する前で。


「わたくしに、婚約破棄をなさった王太子様の後に婚約を発表しろと仰るのですか? 」

「そ、それは…… 」

「婚約を破棄した忌まわしい場所で? 」


そうですわ。

婚約を破棄した忌まわしい場所で、わたくしたちの婚約を発表する積もりだったのですか?


やはりにして、ですわ。


「王太子様もご存じで御座いましたでしょう。わたくしたちが今日、婚約を発表する事を。それなのに何故、この場で婚約破棄の発表をなされたのです? 」


わたくしは気になって聞いてしまいましたわ。この世界は乙女ゲームですから仕方がないのですが。


「それは、そこのマロンが私の大切なストロベリーを虐めていたことを皆に知らしめるためだ!! 」


まぁ、お馬鹿様ですわ。

みな様に知らしめて如何するのでしょうか? 


何か得でもあるのでしょうか? 

損しか御座いませんわよ。


やはりお馬鹿様ですわ。


乙女ゲームの殿方は、お馬鹿様しかいないのでしょうか?


ああ、ほんとに愚かでしたわ。

このような殿方に心ときめかせゲームを嗜んでいたなんて。

わたくしは愚か者で御座いますわ。


ですが、わたくしはソムリエール国の王女ロゼッタ。


このような愚か者のままでいるわけにはいきません。

わたくしは国の為に、きっぱりとこの婚約の申し込みを断ることに致しますわ。


きっとお父様も、お母様もお兄様も分かって下さいますわ。


だって、どう考えてもソムリエール国の利益にはならないですもの。

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