最後の涙〜敵性生命体と人間の最後の審判〜

コウノトリ🐣

感情は涙は人間の証

 20XX年、人間に擬態する生命体が現れた。彼らは私たちの生活に紛れ込んで、人間と入れ替わるという。そんな彼らは格好を真似るだけで感情表現が苦手だった。


 彼らを駆逐しようとする人間となんとか人間を滅ぼそうと擬態して人間社会に入り込む彼らの戦いが静かに行われていた。

 だから、「人が死ぬ時、私はちゃんと悲しめるかな?」こんな疑問もこの時代では重要だった。でも、そう言っている時点でダメなんだって。悲しめるかな? じゃなくて、悲しみが湧き出てくるもんだって。それでみんな顔を伏せて「う〜、う〜」って泣いている。

 それで私にも感情が湧いてきた。それは”羨望”。ふざけていない。死んだのが羨ましいって言うわけでもない。悲しむ人が多いことを思っているわけでもない。

 ――私は人が亡くなって泣けることを羨んでいた。


「私の心って、人間じゃないんだ」


 通常の人なら、こんな感情湧いてこないはずだから。泣かないとって思って一生懸命泣いて人間の真似事をしないといけない私を哀れに思うの。


 ああ、私も彼らみたいに泣けたら楽なのにって。乾いた目を強く擦りながら、私はそんなことを思う。今日はもう顔を上げることができないな。


「お姉ちゃん、どうして目を擦っているの?」


 知らない無表情で顔を傾ける小さい女の子だった。少女はきっと気づいたのだろう。私が涙のない目を擦っていることに。強く擦りすぎた目は赤く充血し潤んでいるようにも感じる。だから――私はこの選択が間違いと知らずに顔を上げてしまった。


「ヨミさんが亡くなって悲しいからだよ」

「なんで泣いてるの?」

「え? 何を言って――」


 少女の言葉で私のことを周りの人が見た。それからは早かった。なんの感情も浮かんでいない大人たちが追いかけてきて捕まえるのも。動けないようにタコ殴りにされるのも。嘘だ、私の目は充血して潤んでいないとおかしいのに。真顔の大人たちに囲まれ殴られた時、恐怖で私の枯れた目から涙が出て頬を伝う。

 ああ、これが涙か。ジーンとするような冷たくて痛い涙だった。お父さん、お母さん。助けてよ。そんなみんな無表情で見ていないで――あっ



 ヨミの葬儀にて、数年ぶりに絶滅したと思われていた種族名:人間を駆除。

 当該個体は涙を流したことにより識別。

 式の進行および出席者の同胞たちの協力に感謝する。

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