第4話 それでも、名前が残った
“死んでくれたら、助かる”。
そんなふうに思われたことがある人間は、どれくらいいるだろう。
けれど、もしも「そう願われたこと」が、自分の“最期”を正当化するなら。
そしてその“死”が、誰かの救いになるなら。
——それは、もはや“悲劇”ではないのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――
第1章 人たらしめるものとは
夜の冷え込みは、春だというのに容赦がない。
駅裏の通路、薄暗い照明の下に、段ボールと毛布の重なりが置かれていた。
それが「彼」のすべてだった。
雨宮修司。五十二歳。元・経理職。いまは、誰でもない。
パンの耳が詰め込まれた袋を枕にして、彼は目を閉じていた。
通行人に気づけば起きてしまう、浅くて薄い眠り。
寝ているというより、ただ「横になっている」だけだった。
背中がコンクリートに冷やされ、骨に響くような痛みが残る。それでも、ベンチは贅沢品だった。
「…邪魔なんだけど」
突き刺すような声。
若い男が、雨宮の足元を軽く蹴った。
「おっさん、ここ通路なんだけど。寝るとこじゃなくね?」
「ああ…すまん」
足を引っ込め、体を起こす。腰が痛い。膝も軋む。
それでも反論はしない。慣れきっていた。
誰も、自分を避けてはくれない。見下ろされることにも、文句は言えない。
それがこの世界の“ルール”であり、自分の“立場”だった。
男は舌打ちしながら通り過ぎた。
その背中を、雨宮は見なかった。
見たところで、記憶に残す意味がないからだ。
――また、今日も俺は、そこにいなかった。
この場所で何年が過ぎただろうか。思い出すことすら面倒だった。
時間の概念は、すでに朧気になっていた。曜日も、季節も、誰かの服装でようやく分かる程度。
最初は、ここにいることに少しの恥があった。
次第にそれもなくなり、やがて誇りも忘れた。
ただ、ひとつだけ、忘れていないものがある。
“名前”。
何も持たず、何も守れず、何も残せなかった。
けれど、名前だけは、まだ自分の中にあった。
それが、自分という存在の、最後の名残だった。
雨宮修司。
誰の記憶にも残らない名前。
でもそれが、唯一、確かに「残ってしまったもの」だった。
そう、名前だけは、失くせなかった。
かつて、それなりの肩書きがあった。
背広を着て、経理として数字を追い、納税と会計の帳簿に埋もれて生きていた。
だが、不渡りが連鎖し、会社は崩れ、家族も崩れ、自分も壊れた。
そのときに失ったものの中で、唯一残ったのが“名前”だった。
今ではそれすら、ただの記号だ。
だが、それでも——
「せめて、その名前ぐらい…どんな形であれ残して終われたらいいのにな」
誰に言うでもない呟き。
返事なんて期待していない。
だけど。
「その“名前”を使って、社会にあなたの存在を残す方法がありますよ」
静かな、しかし異様に滑らかな声。
声の主は、音もなく背後に立っていた。
仕立ての良いスーツ。無表情。目に見える感情はどこにもない。
だが――
その姿は、決して“無関心”ではなかった。
その視線は、確かに雨宮を“人間”として捉えていた。
「あなたの名前を、設計に使いたいのです」
初めて聞く、その提案。
雨宮はただ、ぼんやりとその男を見つめた。
死に損なった人生の最終章に、得体の知れない男が現れた。
“名前だけが残った男”に、価値を見出す者が、まだいたのだ。
―――――――――――――――――――――――
第2章 提案と契約
「設計って…あんた、何者だ?」
雨宮は目を細め、じろりと睨むようにスーツの男を見た。
その声には、明らかに敵意と警戒が滲んでいた。
見慣れた“胡散臭い勧誘屋”とは、どこか違う。だがそれが余計に不気味だった。
小綺麗な身なり、場違いなほど整ったスーツ、そのくせこの路地裏に一歩も迷わず現れた。
不自然すぎた。
「どうせ、怪しい保険屋かなんかだろ。貧乏人をネタに金を巻き上げるタイプの」
男は反応を見せなかった。ただ、柔らかく頭を下げた。
「私は蘇我。制度を用いた生命保険の設計をしています」
「制度ねぇ…よく言うよ。どうせ金の匂い嗅ぎつけてきただけだろ」
「それなら、わざわざこんなところに来る必要はありません。あなたのような方に“営業効率”を求める企業などありませんから」
雨宮は、その言葉に一瞬言葉を詰まらせた。
だがすぐに顔をしかめて吐き捨てた。
「…言い方が上等すぎるな。余計に胡散臭いわ」
「当然の警戒心です。ですが、私はあなたから何も“奪う”つもりはありません。むしろ、制度上“還元する”提案をしに来ました」
蘇我の声は、波のように穏やかだった。
感情の起伏がないのに、なぜか耳に残る。冷たいが、よく通る。
「保険…? “死んだら金が出る”ってアレか」
「厳密には、“制度の中で、死に意味を持たせる仕組み”です」
その言葉に、雨宮の目がわずかに動いた。
意味を持たせる? この“名ばかりの命”に?
「あなたのように、居所がなく、家族と縁が切れており、制度の外に押し出された存在…そういった方にこそ、保険という制度は特異的に機能します」
「へぇ、見下すのが上手いな」
「見下していません。事実を述べただけです。制度に必要なのは“社会的整合性”であって、人格評価ではありません」
雨宮は鼻を鳴らしたが、それ以上は言わなかった。
この男が、自分を煽るために言っているわけではないと、なんとなくわかってしまったからだ。
その“わかってしまう感じ”が、また腹立たしかった。
「…で? なんだってんだ。俺に保険売るのか?」
「あなたの名義で、災害死亡保険に加入していただきます。月額は4,300円。死因が事故であれば、最大1500万円の支払いが可能です」
「…俺に金なんか残しても、意味ねぇだろ。家族にだって残せねぇんだぞ」
「ええ。ですから、“あなたの死に価値を与える受取人”として、私が設立した社会的信託団体を指定します」
「…都合のいい団体があるもんだな」
「制度に必要なのは“存在”ではなく、“名義”です。あなたの名前が、今なお有効である限り、制度は受け入れます」
雨宮はしばらく黙った。
心のどこかで、“死に意味を見出す”などという言葉に、すがりたくなる自分がいた。
それがさらに腹立たしかった。
「…俺に何の得がある?」
「契約後、あなたには月額の保険料が全額返金されます。加えて、事前に10万円の生活支援金をお渡しできます」
「死ぬまでの準備金、ってやつか」
「そう解釈していただいて構いません」
雨宮は睨むように男を見た。
それでも、最初よりはわずかに目の力が緩んでいた。
蘇我は、一貫して淡々と話していた。ただの勧誘文句を超えて、“制度”の論理として話していた。
その冷たさが、逆に信じられた。
蘇我はひとつ、書類を差し出す。
雨宮はそれを見下ろしながら、ふと呟いた。
「名前しか残ってねぇ人間が、名前だけで契約できるんだな…皮肉なもんだ」
蘇我はわずかに笑ったように見えた。
「制度とは、そういうものです」
―――――――――――――――――――――――
第3章 制度への適合
数日後、雨宮は、蘇我の手配した“空き家”にいた。
かつて誰かが住んでいた痕跡が微かに残る、郵便受けと表札だけが生きている場所。
瓦は割れていない。扉も軋むが閉まる。水道も、かろうじて通っている。
だが人が長く住んでいなかった空間には、どこか“音の響き”が違う。壁に跳ね返る自分の足音が、誰の記憶にも届かないような気がした。
「この住所は、私の管理下にあります。登記上、居住実績のある物件ですので、住民票の登録も可能です」
蘇我がそう言ったとき、雨宮は少し眉をひそめた。
「“この”住所、ってことは…他にも、あるのか?」
蘇我は淡々と頷いた。
「複数です。“各種申請に制度的整合性を保てる住所”として、一定数を管理しています」
「保険会社に疑われたりはしねぇのか?」
「保険会社のシステムは“名寄せ”で個人を照合します。同一住所で複数契約が存在しても、契約者と受取人が一貫して異なれば、不自然とはされません。
もちろん、書類上の提出内容と照合し、問題が発覚しないよう“分散”しています」
「…用意周到ってレベルじゃねぇな」
雨宮は皮肉混じりに言ったが、内心では圧倒されていた。
制度の穴に滑り込む、ではない。
この男は、制度の“骨組み”を知っていて、そこに“設計”を加えている。
それは、善悪の話ではなかった。単に“出来てしまっている”という事実だった。
蘇我は続けた。
「こちらが一時的な住民票移動届。こちらが保険契約書。そして、こちらが郵便転送サービスの申請書です」
雨宮は書類を受け取りながら、目を細めた。
「ここまでやる理由は? 俺みたいな、社会の端っこの人間に」
「あなたに価値があるからです」
「俺に? 名前しか残ってねぇこの俺に?」
「名義は制度にとって絶対です。制度が“信じる”のは、過去でも人格でもなく、“登録された情報”です。
それが一致する限り、あなたは“生きている者”として制度に存在するのです」
雨宮は黙った。
自分でも、こんな理屈を素直に飲み込んでいるのが不思議だった。
けれど、話が嘘じゃないと、本能が告げていた。
蘇我が、さらに一枚の書類を差し出した。
「これは、信託団体の概要説明です。あなたの保険金は、この団体を経由して“生活困窮者の再起支援金”として活用されます」
「は…? 寄付みたいなもんか」
「実質的には、そうです。ただ、これは“契約”に基づく支払いですので、制度上は寄付ではなく、“指定された対価の受領”です」
雨宮は説明文を眺めた。
そこには、美辞麗句が並んでいた。
“社会的役割を失った人々に、新たな一歩を”
“過去を問わず、未来に繋がる設計を”
「俺の死んだ金で、誰かが生きるってわけか」
「そう解釈していただいて、構いません」
「…で、本当にそうなんのか?」
「すべての受取金は、監査法人の管理下に置かれ、支出内容は毎年開示されています」
雨宮はわずかに息をついた。
なんだか、それは“きれいな話すぎる”と思った。
「よくできてんな…俺が納得しそうな話を、ちゃんと並べてくる」
「制度に求められるのは、整合性と、わずかな納得です。信仰ではなく、設計です」
雨宮は笑った。
それは、乾いた、だがどこか諦めにも似た笑いだった。
「じゃあ、聞くけどよ……」
蘇我に向けて、まっすぐに視線を向ける。
「だったら、自分がこの“生活困窮者の再起支援”を受けたいって言ったら……あんたは、どうする?」
蘇我は微動だにしなかった。
「制度上、受給対象には“遺族”あるいは“指定対象者”という制限があります」
「つまり、ダメってことか」
「正確には、“あなたのような生きている人間”に、この制度の恩恵は設計されていない、ということです」
雨宮は、肩をすくめて笑った。
「生きてたら受けられねぇ支援、か……じゃあ、死んだらようやく、社会に必要とされるってわけだ」
「必要とされるのではなく、“適合する”のです。
制度とは、社会の倫理ではなく、“運用”を重視して構築されています」
「運用……ね」
雨宮は、その言葉を舌の上で何度か転がすように、静かに繰り返した。どこかで、その“割り切り方”に救われそうになる自分と、吐き気がする自分とが交錯していた。
雨宮は黙り込んだ。
沈黙の中で、言葉にならない何かが胸の奥を押し広げていた。
わずかな時間の逡巡ののち、ゆっくりと息を吐き、蘇我を見た。
その目には、もう迷いはなかった。
{…わかった。
その“設計”とやらに、俺の名前、使ってくれ」
そのとき初めて、雨宮は、書類に名前を書いた。
インクが紙を滑り、ゆっくりと乾いていく。
名義。それは、ただの印字ではなく、“存在の痕跡”だった。
―――――――――――――――――――――――
第4章 家族という名の呪い
契約が完了したあと、雨宮は小さな紙袋を受け取った。
中には10万円が現金で入っている。銀行口座がない者には、それが最も確実な渡し方だった。
雨宮はそれを握りしめ、ふと笑った。
「…十年前なら、こんな金、手に入れるために犯罪だってしたのにな」
蘇我は答えなかった。
返す言葉がないのではない。ただ、“反応する理由がない”というだけだ。
雨宮はゆっくりとベンチに腰を下ろし、紙袋を膝に乗せたまま、ぽつりと呟いた。
「俺さ、昔…家族がいたんだ」
風が、鈍い金属の音を連れて通り過ぎた。
「女房と、息子。三人家族だった。一人息子でな、名前は直人。すごく真面目な子だったよ」
蘇我は相槌も打たず、ただ立っていた。
沈黙のまま、聞くことに徹していた。
「俺は経理だった。そんなにいい会社じゃなかったけど、数字を追いかけるのは嫌いじゃなかった。
だけど、ある年、取引先の倒産が連鎖して…資金繰りが一気に詰まった」
雨宮の目は遠くを見つめていた。
「妻が倒れて、パートもやめた。息子は進学をあきらめかけてた。そんなの、親として見てられなかった」
言葉が、乾いた唇の隙間から漏れ出すようだった。
「だから…やったんだよ。会社の経費を少しだけ“借りて”、間に合わせた。
すぐ返すつもりだった。でも、生活ってやつは待ってくれなくてさ」
雨宮の手が、紙袋の角を握りしめる。
「最初は一度きりのつもりだった。けど、気づいたら、額が膨らんでて……バレた。
その瞬間に、全部壊れた」
蘇我はまばたきすらしないまま、じっと聞いていた。
「会社はクビ。妻は黙って家を出ていった。最後に息子とだけ、言葉を交わした。
殴られたよ。強く、じゃない。…泣きながら、叩かれた」
雨宮の目尻が、ほんの少しだけ濡れていた。
「『お前の正義のせいで、俺たちは地獄だった』…って、あいつ、そう言った。
それっきりだ。連絡先もわからない。電話も、メールも。全部、消えた」
紙袋に落ちる涙が、封を濡らした。
「それでも…それでも、ほんとはさ。
死ぬときくらい、何か残せたら、って思ってたよ。
保険金で…あいつの人生が少しでも楽になるならって」
蘇我はわずかに首をかしげたように見えた。
それは否定でも肯定でもない、ただの動きだった。
「でもな、それはきっと、ただの自己満足なんだ。
俺が死んで金だけ送りつけても…あいつにとっちゃ、呪いでしかねぇよ」
雨宮の口元に、乾いた笑いが滲んだ。
「今さら“父親”の名前が届いたら、あいつ、どう思う?
“死んだ人間”の名が、ポストに残るなんて、それだけで気が滅入るだろ」
沈黙。
蘇我はひとつ、言葉を置く。
「家族には、保険金を残さないのですね」
「ああ。残せねぇ。残したくても、できねぇ」
「名前も住まいも不明。連絡手段もなし。制度的にも指定不可能。
そして、精神的にも“触れられない”というわけですね」
「…そうだよ。あいつの人生に、俺の死まで関わっちゃいけないんだ」
雨宮はふと、蘇我を見た。
「なあ、あんたなら…どうする?
もし、自分が親で、同じ立場だったら…それでも金、残すか?」
蘇我は、わずかに目を細めた。
「私は、親ではありません。感情の継承も経験もありません。
…しかし、“制度上の有効性”に従うならば、残します」
「…そりゃそうだ。お前はずっとそれだな。制度、制度、制度…」
「制度は、私の中では“誤差”が最も少ない選択肢です。
あなたが選ばなかったとしても、それを私は記録し、別の設計へ反映させます」
雨宮は黙り込んだ。
だが、その表情には怒りも絶望もなかった。
あるのは、ただ一つの感情——納得。
「…なら、それでいい。あんたのその冷たさが、いまはありがたい」
―――――――――――――――――――――――
第5章 価値の所在
雨が降っていた。
灰色の空の下、駅の構内に、アナウンスが無機質に響く。「ただいま人身事故の影響で、一部列車に遅れが発生しております」
改札前の人々が、誰ともなくため息をつき、スマホを確認する。誰も、“その人”が誰だったかには、興味がない。
けれど、その“死”には価値がある。制度上は、それが“事故”であると認定された。警察による現場検証も、保険会社による調査も、形式的なものに過ぎなかった。
雨宮修司。五十二歳。無職。死亡原因:鉄道事故死。契約番号X-873-144。災害死亡保険、支払対象。受取人:特定公益信託「支援再構築機構」。
——支払金額、1500万円。
蘇我は静かにスマートフォンを耳に当てていた。通話中、バックミラーには自分の顔が映る。いつもと変わらぬ無表情の中に、わずかな疲労の色が滲んでいた。
「…今回も無事、設計完了。制度は受理された」
電話の相手は、社会的信託団体の責任者であり、蘇我の計画当初から共に歩んできた女性だった。制度構築、書類整備、受取人設計、団体設立——すべてに彼女は関わっている。計画の全容も知っている。
『事故死、ということで処理されました。新聞にも掲載なし。鉄道会社も詳細は伏せたままです』
「そうか。報道の有無は大きい。社会的反響のリスクは極力抑えたい」
『いつもながら…完璧な処理ですね』
「君の協力あってこそだ。いつも有益な情報をありがとう」
彼女は少し黙ってから、言葉を続けた。
『…正直に言っていいですか?』
蘇我は一瞬、目を伏せた。沈黙が先に返る。
『私は、あなたのやっていることが…制度上正しくても、人道的に見て“ただの悪”にしか思えないんです』
それは、彼女が初めて発した“明確な否定”だった。
共に制度を構築し、死と金の関係を設計し、歯車を回してきた彼女が、それでも——いや、それだからこそ言うべきだと思った言葉だった。
『あなたの声が、この頃、少しずつ変わってきている。
感情のないはずのあなたが…まるで、感情を持ち始めたかのような言い方をすることがあるんです』
『今日の件もそうです。言葉の端々に、迷いがあった。あなたは今、制度を守っているのか、それとも——自分を守るために制度にすがっているのか…』
蘇我は微動だにせず、ただ次の言葉を待つ。
『私には、あなたの心が壊れかけているようにしか見えないんです』
沈黙。
『…もしかして、あの事件のことが関係しているんですか?
あなたがかつて——』
「それ以上はいい」
蘇我の声が、久しく聞かれなかったほど、硬かった。
電話の向こうが静まる。
その一瞬の沈黙に、すべてが凍りついたようだった。
蘇我は少しだけ、声を落とした。
「制度は、目的を問わない。設計するのは“結果”だ。私は誰かの命を“通貨”にするために動いているわけじゃない。制度の“歪み”を、制度そのもので補うために設計している」
『…それが、あなたなりの正義ですか』
「いいや。正義など存在しない。ただ、誰かの“死にかけた命”を、制度の中で“数字に変換”する。それができると、私は理解している。それだけのことだ」
深く息を吐いた。スマホを耳から離し、切る直前にだけ、言葉を添える。
「心配はいらない。まだ続けるつもりはある。ただ…終わりがあるとしたら、それは“設計が不要になる未来”だ。制度の歪みが、制度によって整うとき——そのときまでだ」
通信が切れる。蘇我はスマホを助手席に放り、ファイルを静かに閉じた。
次の見込客リストを手に取りながら、ひとつ、呟いた。
「…さて。次は、誰に“設計”を提案しようか」
雨はまだ、止んでいなかった。だが、設計はすでに始まっていた。
―――――――――――――――――――――――
【著者所感】
お読みいただいた皆様、今回もありがとうございます。
書いててどんどん鬱々とした気持ちになった著者でございます。
今回の話は制度構築の当初からあったものなのですが、いかんせん煮詰まってしまい、本来なら第1話として出す予定でいた話でした。
複雑なシステムを作る人たちってすごいな~、私にはできないな~と痛感した次第です。
とはいえ形になりました。
蘇我の使う手法、
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