真が自身の学級の教室に入ると、ともに新聞委員を務めている高山玲香が、鋭い目つきで彼のほうにやってきた。

「ちょっと! 記事、書いたのっ?」

 本来は、多くの男子から恋心を抱かれそうな、可愛らしい顔を、鬼のように変えて問いかけた。

「悪い。まだなんだ」

 真は両手を合わせて謝る動作をしながら答えた。

「もー! なんでそうやって心配した通りのことをすんのよー!」

 申し訳ないという態度を真はとり続けたが、玲香の怒りを静めるほんのわずかの効果もなかったのだった。

「待ってよ。テキトーにならいくらでも書けるけど、素晴らしい出来のものにしようって気持ちだからこそ、なかなか筆が進まないんだ。真面目に取り組んでるんだから、偉いっしょ?」

 その弁明にも、彼女は冷めた表情で、軽く息を吐いた。

「良い言い訳をひらめいたと思った? 今の言葉が相手を納得させて受け入れられるかどうかは、日頃の行いで決まるの。それくらい、ちょっと考えればわかるでしょ。私、先生から、『伊藤くんと委員一緒で大変だろうけど、頑張ってね』って同情されたんだよ。ほんと、その通りだよね」

「ええ? 誰だよ? そんなひでえこと言う先生」

 真は唇を尖らせた。

「教えないけど、嘘はついてないからね。全面的に賛成とまでは言わないでおいてあげるとしても、その先生の気持ちも十分わかるよ。あんた、なにかっていうとすぐふざけるんだから」

「だって、人生楽しまなきゃ、生きてる意味ないぜ」

 彼はおどけてかっこつけたポーズをきめた。

 玲香は開いた口がふさがらないといった顔つきで一瞬黙った後、一層大きくした声を浴びせた。

「だから、どうすんの! 記事!」

 耳の穴に指を入れた真は、そのままの状態で返事をした。

「わーったよ。なんとか今日のうちに書き終えて、明日の朝一番で提出してくるよ。それで多分大丈夫だろ。そんとき、『ちょっと遅れちゃってすみません』って、ちゃんと謝っとくしさ」

「ハー」

 玲香は深いため息をついた。

「しょうがないからそれで許すけど、口にしたことくらいはきちんと守ってよね。よく知らない他の学年の人たちは特に、あんたがしっかりやらないと、私も同じようにいいかげんな人間だと見なしちゃうだろうし、そのせいで別の機会に不利益を被るなんて可能性だってなくはないんだから。ほんっと、勘弁してほしいよ」

「そんなに神経質に考えないで大丈夫だって。実は、書く候補のもの、すでに一個、頭にあるんだ。新聞で面白いもんといって真っ先に思いつく、四コマ漫画で、ツノが生えた凶暴な女のコが暴れるっつー話なんだけど」

「なに、それ。まさか、私がモデルとか言うんじゃないでしょうね?」

「いやん、バレましたん。おたく、勘が鋭いどすなー」

 真面目にしゃべっているのに、おちゃらけるのを一向にやめない真に、玲香は最大級の怒りをぶつけた。

「ふざけんな! バカぁ!」


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