第19話 時代は巡る、されど
映像はさらに、俺たちにとって、あまりにも衝撃的で、そして不愉快な事実を告げた。星の民の儀式は、一度は成功しかけた。世界の危機は回避される寸前だった。だが、その儀式の最終段階で、彼ら星の民の中から、その強大すぎる力を私利私欲のために悪用しようと企んだ、強欲で野心的な指導者が現れたんだ。
そいつは、儀式の力を乗っ取り、「厄災の星」のエネルギーを自らの支配下に置くことで、神にも等しい絶対的な力を手に入れ、星の民だけでなく、この宇宙全体を支配しようと企んだ。その映像に映し出された、権力欲に目が眩み、醜く顔を歪める男の姿は、どことなく……いや、正直言って、かなりバルドゥスに似てやがる。奴のあの尊大で独善的な態度、他者を見下す傲慢な目つき……まさに生き写しだ。
その裏切り者の指導者の愚かな行為の結果、儀式は不完全に終わり、制御不能となった「厄災の星」の暴走エネルギーは、星の民の高度な文明の大部分を容赦なく破壊し、彼らの多くがその尊い命を落とした。生き残った僅かな星の民たちは、未来の世界に同じ過ちを二度と繰り返させないため、この聖域に彼らの知識と、痛切な警告を遺し、歴史の闇へと静かに姿を消したという。
「なんてことだ……。歴史は繰り返す、ってか……。バルドゥスの野郎が、今まさにやろうとしてることは、この数万年前のクソ野郎と、寸分違わずそっくりじゃねぇか……。あいつも、エーテル結晶体とかいう、中途半端な力で、世界をどうこうしようとしてやがった……」
俺は、背筋に冷たい汗がツーっと流れるのを感じた。バルドゥスの暴走は、単なる一個人の狂気じゃなく、もっと根深い、人間の愚かさの象徴なのかもしれねぇ。
立体映像が静かに消えると、老鉱夫の爺さんが、どこか悲しげな、それでいて厳粛な面持ちで静かに口を開いた。
「……わしは、この聖域を代々守り、星の民の警告と彼らが遺した技術を、いつか必ず現れるであろう『真の継承者』に伝えるという、重い使命を帯びた、彼らの遠い末裔の一人じゃ。レオ、お前さんのその常識外れの錬金術の腕、そして何よりも、その穢れを知らぬ星詠みの嬢ちゃんを、命を賭してでも守ろうとする、その強く気高い意志。それこそが、星の民が永い間待ち望んでいた資質なのかもしれんな……」
爺さんはそう言うと、神殿の奥にある祭壇から、古びた黒檀の木箱を、まるで赤子でも抱くかのように大事そうに持ってきた。
「これは、星の民が、最後の最後に遺した、一縷の希望……『調律の
爺さんは、その杖をゆっくりと俺に差し出した。それは、まるで磨き上げられた黒曜石のような、滑らかで冷たい木肌に、夜空の星々を模した銀色の金属で、極めて複雑で美しい紋様が施された、神秘的な杖だった。手に取ると、ズシリとした心地よい重みと、まるで生きているかのような不思議な温かさを、掌に感じた。
「レオさん……この杖、きっとあなたなら……あなたなら使いこなせるはずです……! あなたの錬金術と、私の星詠みの力を合わせれば、きっと……!」
セレスティアが、期待と信頼に満ちた、潤んだ瞳で俺を真っ直ぐに見つめる。
「……ああ、分かった。この『調律の杖』、この俺、レオ・ラーゼスが確かに預かろう。こいつを使って、セレスティア、お前の儀式を必ず成功させる。そして、今度こそ、あのクソみてぇな厄災の星を、完全に黙らせてやるんだ。バルドゥスみてぇな、歴史から何も学ばねぇ馬鹿に、二度とこの世界を汚させるわけにはいかねぇからな」
俺は、調律の杖を強く、そして固く握りしめた。それは、ただの道具じゃねぇ。星の民の数万年に及ぶ悲願と、この世界の、そしてセレスティアとアルトの未来が託された、重い重いバトンなんだ。
その時だった。聖域の入り口の方角から、微かではあるが、明らかに不穏な地響きと、何かが激しく爆発するような、耳障りな轟音が、断続的に聞こえてきた。
「まさか……追っ手か!? どうやってこの聖域の場所を……! それに、この結界を破るなんて……!?」
アルトが、信じられないといった表情で叫ぶ。爺さんの顔にも、初めて見るような深い焦りの色が浮かんだ。
「ありえん……この聖域の結界は、星の民の血を引く者か、あるいは彼らが認めた特別な
どうやら、俺たちの束の間の休息と、過去への旅は、思ったよりもずっと早く終わりを告げそうだ。バルドゥスの野郎、どこまでも俺たちの邪魔をしに、地獄の底からでも這い上がってきやがる。
だが、今の俺には、この「調律の杖」と、星の民が遺した古代の叡智、そして何よりも信頼できる仲間たちがいる。もう、逃げも隠れもする必要はねぇ。奴との長すぎた因縁に、決着をつける時が、いよいよ来たのかもしれねぇな。
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