#3-1.好きなんて言葉。
心臓の音が聞こえる、というかそれしか聞こえない。
久々に走ったということもあるだろうが、他人の家に上がるなんてこと人生において覚えている限り無かった。
不安とか、緊張とか色々混ざりあって思考が上手く回らない。
引っ張り連れてきた当の彼女も何だか焦りか緊張か、僕を自室に押し込んでからドアの向こうで慌ただしく動いている音がする。
少し鼓動が落ち着いてきた。
辺りを見回してみる。
女の子の部屋。
綺麗に整頓された部屋。
趣味嗜好が合うなぁなんて感じていた割に、そういった類の物は余り見当たらなかった。そんなことを不思議に思っていたらドアを聞こえた。
「お待たせ〜。これ、どうぞ〜」
そう言って入ってきた彼女の手にはグラスが二つ。
外は相変わらず真夏日だったので丁度喉が渇いていた。
「ありがとう」
有難く受け取って一口。
冷えていて美味しい。一気に思考が回復する。
彼女も一口飲んで一呼吸置いたところで彼女が言った。
「ねぇ、なにか抱えてるよね?話せるなら話して欲しい。」
突然の一言。
急に⁉︎弱み握られる⁉︎真意はなんだ?
「ふふっ、脅しっぽくなってごめん」
彼女か笑いながら弁解する。
そんなに僕の人の驚いて怖がる顔が面白いか。
「心配なの。昨日も今日もなんだか心の奥に抱えてるような、暗い感じがして。私に話してそれが落ち着くなら、それを聞いて私がなにか力になれるなら、是非話を聞きたいと思って。」
こんなに僕の事を考えてくれる人は今までいただろうか。いや、一人居たか。まぁいい。
昨日のこと、いや今まで抱えてる過去のこと、ここで言うべなのだろうか。
暫く静寂が続いた。
返事はもう決まっていた、ただこの静寂を破る勇気が出なかった。
その時、彼女が口を開きかける、それに被せるように口早に。
「ごめん。」
彼女の目が曇る。
あぁまた見れない。彼女が見れない、見たくない。この感情を押し殺すように続ける。
「まだ勇気出ない。」
いっつもそうして逃げてきたんだ、ここで話さなきゃどこで話すってんだよ⁉︎抱え込んだらいつか爆発してダメになるのは知ってるだろう⁉︎話せよ俺!バカ!
「そっか…」
彼女が肩を落とす。そんなに僕のことを考えてくれるのか君は。僕は僕から逃げてるってのに。
「そしたらさ、連絡先交換しようよ。」
彼女がまた提案する。
「まだ繋いでなかったし、これでしんどくなったらいつでも話聞いたげるから。」
そうしてササッと彼女はスマホを出すとLIMOのQRコードを出す。
返事をする代わりに僕もスマホを出して登録をする。
友達は一人。それも親というなんとも寂しいLIMO。
そんな寂しげな所に「奏」というアカウントが追加される。
なんだか嬉しいな…
それからは気まづくなってすぐ帰った。
十八時を過ぎたというのにまた暑苦しい帰り道で思う、なんで彼女はあそこまで僕を気にかける?知りたがる?なにか僕の知らない僕の秘密でも知っているのか?単純な好意?好きなのか?
ここまで考えが巡って考えるのをやめた。
顔が暑い。これは外の温度のせいだと言い訳しながら足早に家に帰る。
家は涼しいな…
冷蔵庫に残っていたアイスを取り自室に向かう。
アイスを貪りながらLIMOを眺める。せっかく寄り添ってれたのに、申し訳ないことしたな…。
明日もいつも通り図書室に居よう。多分来るさ。その時謝ろう。
シャワーを浴び、ご飯を食べる。
今日は夜更かしせずに、おやすみ。
今日は珍しく寝坊した。
今日は最短ルートを通って学校に向かう。その道中、民家の塀に貼られたポスターに目が着く。
放置された、去年の花火大会のポスターだった。
こいつは使える。放課後が楽しみになってきた。
小走りで学校に向かった。
これほどまでに放課後が楽しみになったことは無かった。初めての感覚だ、彼女に会いたいと心臓が訴えかけている。
いつもの席に座る。
今日は本を読まずに。
座って十分程だろうか、彼女が入ってきた。
彼女はいつも髪を結っているのに、今日は結わずに下ろしていた。こっちの方が似合っていると思ったし、正直好みだ。
彼女がこちらに気づくと同時に手を振る。
彼女がこちらに近づく。
彼女が近づいてくるのに合わせて立ち上がる。
お互い正面に立つ。
と同時に。
「「ごめん」」
⁈
謝るのは僕の方だろう?何故君が謝るんだ。
そう思って彼女を見ると、同じことを訴える目をしていた。
「衝動的な考えで連れ回して心に押し入ろうとしてしまってごめんなさい。」
彼女が言った。
より深く頭を下げたので驚いて焦りながら言う。
「そ、そんな事言わないで。僕のこと考えてくれて、見ようとしてくれてすごい嬉しかった。突然のことでびっくりしちゃって…。断ってごめん。」
僕も頭を下げる。
頭をあげるとさらに驚いたことに、彼女が泣いていた。
一旦、二人で座って彼女が落ち着くまで見守ってげる。
少し落ち着いてきたのか、彼女が問う。
「嫌い?」
そんなわけない。心に任せて言う。
「そんなわけないじゃないか、好きに決まってる。」
ん?なんか好きって言ってないか僕?『好き』なんて言葉を自分の口から発したのは二年振りくらいだぞ、こんな軽く言っていいんだっけ。
「良かったぁ、嫌われたかなって思って不安だったの…。」
良かった。変な意味で捉えられてはいないらしい。
彼女がまた少し泣く。
またしばらく待って落ち着いた頃、朝見たポスターを思い出す。
無意識に呟く。
「「花火」」
へ?彼女も言ったか?花火って。
お互い目を丸にして見つめ合う。
笑ってしまった。
彼女もつられて笑う。
「ふふっ、花火大会だよね?夏の。行きたいと思ってたし、仲直りできるかなって。」
彼女が言う。
「僕も、朝ポスター見つけて。これで仲直り出来るかなぁって。」
理由も似通っていて、また二人してたっぷり笑う。
なんだか、この空間は心地いい。好きだ。
彼女といるとすごい明るくなれる気がする。
この空間がいつまでも続いたらいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます