第3章【友情なんて、うんざりだ。】

 また新宿にやってきました。急に友達になってと頼んでも駄目だろうと思い、作戦を練ってきたのです。広場のベンチに座っている、僕と年の近そうな男の人に声をかけてみることにしました。

「よお! お前のウミ……いや、セイシを飲んであげるから、親友になってくれよ!」

 先週、ミクに教わったように、愛情をしめすために、タメ語を使ってみました。

 ところが男の人は、身震いしながら「いやいや、遠慮しときます!」とだけ言い残し、遠くへ逃げてしまいました。

 おかしいなあ、と思いながら、近くにいた何人かに同じことを言ってみたのですが、全員、逃げてしまいました。

 中には、先週はなしかけた女の子のお母さんのように、「気持ち悪いから、近づかないでくれ!」という人もいて、またまたやる気がなくなってきました。

 しかしぼくがそうして色々な男に話しかけているのを近くで見ていた男の人がいまして、その人にも話しかけようかどうしようかと迷っていたところ、向こうから逆に、話しかけてきてくれたのです。

 黒いスーツを着ていて、坊主頭で口ひげを生やし、赤いふちのメガネをかけた、頭のよさそうな白人さんです。

「わたしはジョンというものだがね、近くにいたもので、君の話が耳に入ったんだよ。つまり君の親友になるという約束をすれば、私の精子を飲んでくれるということでいいのかね?」

「ああ! その通りさ!」

 ぼくは元気よく、いいました。

「そうかそうか。私のを飲んでくれるなら、そんなのはお安い御用さ」

「本当かい? じゃあ、どこで飲もうか?」

 路地裏に連れて行かれました。ミクとのやりとりを思い出し「ゴムはないのかい?」と聞きました。

「なんだ、ゴムフェラなのか? 飲んでくれるってことは、生でしゃぶってくれるんだと思っていたのだが」

「ゴムフェラ……って何だい?」

「ゴムをつけておちんちんをしゃぶることだ」

 精子はおちんちんをこすっていると出てくるものだから、ミクがやっていたように、ぼくがジョンのおちんちんをしゃぶればいいということなのでしょう。今日はセックスをするわけじゃないから、ゴムはいらないんですね。

 そんなわけで、ぼくはジョンのおちんちんを舐め始めました。ミクの舐め方を思い出しながら、続けました。

 これはこれで、セックスとはまた違った面白い感触です。ミクのおまんこを舐めた時は、やわらかかったけど、気持ちい時のおちんちんは、硬いですからね。でも味は、似たようなものかな、と思いました。

 しばらくしゃぶり続けていると、ジョンが、「もっと早く、頭を動かしてくれ!」というので、その通りにしました。ここだけは、セックスと同じなのですね。

 そのうちジョンは、ぼくの頭を自分の両手で持って、自分でぼくの頭を動かし始めました。おちんちんの先がのどの奥に当って、ちょっと苦しいな、と思いましたが、我慢していました。

「ううう……で、出るよ!」とジョンが叫び、いったんおちんちんを口から離して、舌の上に、たくさんの精子を出しました。なんだか生臭くて、ねばねばしています。嫌な味だなと思いながらも、ぼくはそれを全部、飲み込みました。

 ミクが言っていたことの意味を理解できました。こんなおいしくないものを我慢して飲むから、愛情がないとできないってことなのでしょう。

 ジョンはすっかり満足そうにしながら、おちんちんをしまいました。

「これで、親友になってくれるんだよな?」

「当然だとも。またしゃぶってもらえるのかな?」

「親友になってくれるのなら、いつでも何度でも、しゃぶるさ」

 するとジョンは、スーツの内ポケットから一万円札を取り出し「あげるよ」と言ったのです。

 ぼくは、ミクがお金を受け取らなかったことを思い出し「いいよ。だってオレたちはもう、親友同士なんだぜ」と言いました。

 ジョンは「そうか。君は素晴らしい人だ」と言いながら、お札をしまいました。

「君は体格もいいし、とても素直だ。大変気にいった。君さえ良ければ、いくらでも親友を紹介してあげられるんだが、どうかな?」

 それは願ってもない提案でしたので「是非とも、お願いしたいものだ」と言いました。

 こうしてぼくは、ジョンのかっこいい黒塗りのベンツに乗せられて、パーティー会場へとやってきました。

 会場に入るのに必要だからといってジョンがくれた券には、『Drug & Gay Party』と書いてありましたが、ぼくは英語が読めないので、意味はわかりませんでした。

 倉庫のような何の飾りも看板もついていないコンクリートの建物の通用口をくぐりぬけ、薄暗い地下へと続く長い階段を降りると、そこにはとてもきれいな七色の照明に照らされたパーティーの会場がありました。

 さっきジョンからもらった券の切り取り線から半分を、会場の入り口に立っていた黒人の男の人に渡しました。その黒人さんはまるで爆発に巻き込まれたかのような大きな髪形をしています。深夜のテレビに出ていた白いピチピチの洋服を着て踊りながら歌う黒人さんによく似ているな、と思いました。ジョンはその男の人と抱き合いながら、キスをしています。男同士でもするものなのですね。

 ジョンが会場の奥へと歩いていくと、色々な人が話しかけてきました。日本人は少ないようです。それもあってなのか、ジョンの後ろをついて歩くぼくを、みんながじろじろと見ています。

 そしてジョンが、ぼくに会場の真ん中にあるステージの上に立つように言いましたので、その通りにすると、ジョンは僕の隣に立ち、マイクを使って話しはじめました。

「パーティーにお越しの皆さん、今日は本当にありがとう! 私はここのオーナーである、ジョンです! 今日は皆様の親友になりたいという日本の若者をゲストとしてお招きしました! なんとその代わりに、みなさんのおちんちんをしゃぶって精子を飲んでくれるんだそうです! この素晴らしいナイスガイ君に、盛大な拍手をお送り下さいませ!」

 割れるような拍手が、ぼくに向けられました。

「さあ、ここにいるみんなが君の親友になってくれるからね。思う存分、みんなのおちんちんをしゃぶり、精子を飲んでやってくれ」

 すごいことです。ここには100人以上の人がいるようですから、うまく頑張れば、今日一日だけで100人の親友ができてしまうわけです。

 次々に会場の人々がステージに上がってきたので、ひとりずつ、時には2人同時に、おちんちんをしゃぶり、精子を飲んでいきました。

 半分くらいの人のものを飲んだ頃には、あごが痛くなり、お腹の中も変な感じでしたが、ぼくがステージにいるあいだ、まるで芸能人かのように、写真もたくさん撮られましたし、ビデオも廻っていましたから、みんなの期待にどうにか応えようと頑張って、とうとう、全員分の精子を飲み終えたのです!

「よくやった! 感動した!」

 といって、いつの間にか用意してくれていた豪華な花束をジョンがぼくに渡してくれました。

「今日から私たち全員が、君の親友だよ!」

 またまた場内に拍手の渦が巻き起こりました。ぼくはうれしくなって、涙が出てきました。こんなにぼくが注目されるなんて、多分、生まれてはじめてのことだろうと思ったからです。

 ステージから降りた、その時です!

 入り口の方から、大勢の足音が聞こえてきたかと思うと、「動くな!」という声がして、武装して拳銃を構えた、たくさんの警官が一斉に飛び出してきたのです!

 それまでうるさかった会場は一気に静かになりました。

「全員、その場で手を挙げろ!麻薬不法所持の現行犯で逮捕する!」と警察官のうちのひとりが言うと、会場の全員が手を挙げました。ぼくも手を挙げました。警察官が少しずつ動き出し、親友たちに次々と手錠をかけていきます。

 するとそのうちの一人が、手錠をかけようとしていた警察官の手を振り払って拳銃を奪い、警察官の頭を殴りつけました。殴られた警察官は、その場に倒れ、その人は奪った拳銃を周りにいた警察官に向けたのです。

 その瞬間、何人かの警察官がその人に向けて、銃を発射しました。その人はまたたく間に血まみれになって、倒れました。そこから先は、本当になにがなんだか訳がわかりませんでした。

 手を挙げていたうちの何人かが、やはり銃を取り出して、いつのまにか警察官との激しい銃撃戦が始まっていました。

 血しぶきと悲鳴が飛び交う中、ジョンがぼくに、隠してあった裏口から逃げるようにと、指示しました。

「ジョンはどうするんだ!?」

「私はもう少し、ここで粘る。責任者だからな」

「そんな、ジョンを置いて逃げるわけにはいかない!」

「何を言ってるんだ、私は君の親友じゃないか。君を逃がしてやるのが、私の務めなんだよ」

 ジョンは、ぼくのシャツの襟元ををつかんで、ぼくの体を壁に投げつけました。

 体がカベにあたると、カベが回転ドアのようになっていて、気が付くとカベの向こう側にいました。ジョンのことが気になり戻ろうとしましたが、ドアはびくとも動きません。こちらからは開かないようになってるみたいです。暗い通路を歩き続けていると、光が見えました。新宿駅の構内につながっていたのです。

 誰かが出てくるかもしれないと思い、何時間か出口のところで待ちました。けれど、誰も出てきませんでした。しょうがないので、ぼくはジョンが無事だといいなと考えながらも、家に帰りました。

 そしてその日の夜、テレビを見ていると、ニュースで、ジョンを含めた会場の全員が、射殺されてしまった事を知りました。せっかく、親友になってくれたというのに、みんな死んでしまったのです。

 親友なんか、もううんざりだ。たとえ死んでしまったとはいえ、確かに今日、ぼくには100人以上の親友ができたのですから、これで十分だと思いました。

 今日の出来事を参考にして、小説の続きを書こうかと思いましたが、なんだかそんな気にもなれないので、それはやめました。

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