第2章【セックスなんて、うんざりだ。】

 次の休日、女の人がたくさんいる新宿に行くことにしました。駅前の広場に出たところで、赤いワンピースを着た5才くらいの女の子と目が合いました。にこやかに笑いかけてきましたので、この子なら頼みを聞いてくれるかもしれない。思い切って声をかけてみることにしました。

「おじょうちゃん、ぼくとセックスしませんか?」

 女の子は大きな目をぱちくりさせながら、少し離れた場所でおばあさんと話をしている女の人のところへ走っていきました。

「ママ~、セックスって何?」

「リョウコちゃん、どこでそんな言葉覚えたの!?」お母さんは怒ったような顔つきで言いました。

「向こうにいるお兄ちゃんが、リョウコとセックスしようって」

 お母さんはさらに怖い目つきでにらみつけてきたので、機嫌を損ねないように出来るだけ笑顔を作りながら、歩み寄っていきました。娘さんではまずいのかな。

「お母さんのほうでもいいんですよ。今すぐここでセックスしてほしいんです!」

「こっちにこないで! 気持ち悪い!」お母さんは叫びながら娘さんを抱きかかえ、すごい勢いで逃げていってしまいました。

 嫌な気分になったので今日はもう帰ろうかと思いましたが、約束の大金を思い出し、せっかくだから頑張ろうと思い直しました。取り残されたおばあさんに話を持ちかけてみることにしました。逃げた二人の後を追いかけようとしているので、早く声をかけなくちゃ。

「お願いですから、ぼくにセックスを教えて下さい!」その場に土下座して懇願したところ、おばあさんは立ち止まり「あんれま~、どうしまひょ。きもつはうれすぃーけんどもねえ。この年じゃ、いくらなんでも無理だわ。あはははは」と言いました。セックスできない年齢があったとは。

「何歳ならいいんでしょうか?」

「そったらことも知らんのかえ? けったいな若人だなや。まんず、子供やお年寄りでなけえば平気だろうがよ。それより、やらしてくれる相手はそう簡単にはみつかんねえべ。てっとりばやく、風俗にでも行けばよかんべ」

「そこでセックスしてもらえるんですか?」

「んだんだ」

「風俗はどこにありますか?」

「そんだねえ……」

 さっきのお母さんが、おまわりさんを連れてきたのが見えました。おまわりさんは、こちらへ走り寄ってきました。さあ、大変なことになりました。道端暮らしの頃、おまわりさんが来たら逃げるようにと仲間から教わっていたことを思い出し、力の限りに走りました。

 それからどのくらい経ったのでしょう。見覚えのない場所に着いていました。ひと気のない公園のような場所でした。走り疲れたのでガードレールに腰掛けて休むことにしました。すぐ横のゴミ箱をぼんやり見つめていたところ、捨てられた雑誌の表紙が目に留まりました。


『ぼくらのセックス大特集号』


 これはと思い拾ってみると、裸の女の人の写真がいっぱい載っていました。セックスとは裸で体を舐めあったり、唇同士を合わせたりするらしいことはわかりました。けれども色々ありすぎて、いまいちよくわかりません。文学と同じくらい難しいもののように思えてきました。

 雑誌に夢中になっていたところ、隣に人の気配を感じました。ものすごく短いスカートを履き茶色い髪をした女子学生らしき女の人が、いつのまにか座っていたのです。

「やっぱミクが思った通り! ヒライケンにチョー似てる!」

「はあ。そうですか」

「マジよ、マジ。うれしくない?」

 変なしゃべりかただなと思いました。言葉を強くする部分が工場の仲間とは明らかに違うのです。

「ヒライケン……って人、知らないですから」

「うそ~? いま売れてんじゃん。よく言われない?」

「言われたことないです」

 テレビでこういう話し方をする女の人を見たことがあるな、と思い出しました。多分「ジョシコウセイ」とかいう種類の人なのでしょう。「ジョシコウセイ」は子供じゃないって話も聞いたことがあります。でも大人でもないんだったかな? とりあえず子供ではないのだから、大丈夫だろうと思いました。

「あなたはお年寄りではないですよね?」

「なにそれ持ちネタ? 真顔で言うから、チョーうけるんだけど。このひと面白すぎー」

「いやあの、本気で聞いてんですけど」

「ぎゃははははは! まだ言ってるし。あんたボケの才能あるよ。ミク、ボケキャラの人、大好きなんだ」

「ではぼくとセックスして下さるのでしょうか?」

「あんた面白いから気に入った! うん、いいよ。セックスしよ」

 何だか知らないけど、気に入られたようです。でもまだ、はっきりしないことがあります。

「で、本当にお年寄りじゃないんですよね?」

「あたりまえっしょ! もういいから、普通にしてて。でもそういうシツコイ人もミク好みだから、ゆるしたげるけどね。ミクって優しいっしょ?」

「そうですね。いい人だと思います」

「そんな改まった言い方されると、てれちゃうって。タメ語でいいよ」

「タメ語ってなんですか?」

「タメ語も知らないの? あんた若そうに見えけど、本当はいくつよ?」

 ぼくは自分の本当の年齢を知らないので、どきっとしてしまいましたが、そのことを言うと、セックスしてもらえなくなるのかもしれないと思い、「20歳になったばかりです」と答えました。

「ふ~ん。それなら普通は知ってるはずだけど……わかった! キコクシジョでしょ? 濃い顔してるし」

 帰国子女のことでしょうか? 偶然『広辞苑』で読んで知っていました。外国に長いこと住んでいて、元の国に帰ってきた人のことです。ぼくの場合は外国にいたわけではないけど、子供の頃の記憶がないわけですから「そんなようなものです」と答えました。

「だったら言葉知らなくてもしょうがないって感じ。あのね、タメ語って、なんていえばいいかな、丁寧じゃない言葉づかいのことだよ」

「丁寧じゃない言葉づかいですか?」

「乱暴な言葉づかい、でもいいかも。年下の人に話すような感じの」

 親方がぼくらに話しかけるときの言葉遣いを思い出してみました。

「おう! てめえら、調子はどうだ?」

「そう! そんな感じ! いいじゃんいいじゃん! 男らしくって。そのしゃべり方で、ミクにも話してかけてみてよ」

「おう! ミク、調子はどうだい?」

「ちょっと時代劇入ってるっぽいけど、上出来。ほかにもわからない言葉があったら、いつでも教えたげる」

「そうかそうか。そりゃありがてえ話だな」

 ミクがお年寄りじゃなくてほっとしました。あとは、セックスするだけです。

「それじゃあよ、今すぐここで、セックスしようぜ!」

「へ? 突然、なにゆってんの? それってバカすぎー! ぎゃはははは! 人がいっぱいいるのにここでなんてできるわけないっつうの! 露出モノのAVかっつうの! やっぱあんた面白すぎー。ぎゃはははは」

「人がいる場所じゃ駄目かい? そういうもんかよ。世の中には、オレの知らないことがたくさんあるもんなんだな」

 真似るのが面白くなってきて、親方と同じに『オレ』と呼ぶことにしてみました。

「あんた山奥からでも出てきてるわけ~? 普通それくらいわかるってば」

「東京産まれの東京暮らしさ。ところがだな、中学までの記憶がねえしよ、同年代の友達もいねえから、知らねえことだらけなんだ」

「ほえ~。そんな変わった人初めてだよ! 中学までの記憶がないって、なんかドラマの主人みたいでイケてるかも~!」

「どこでならセックスできるんだ?」

「普通はラブホとか行くんだけど、そんなお金あったらミクに貢いでほしいから~、公園の藪の中とかでいいよ~」

「お金? お金を払うのか」

「だって~恋人同士じゃないんだから~ただでやるわけないし~当然っしょ?」

「そういうものなのか。よしわかった、お金は払うからよ、公園でオレとセックスしよう」

 するとミクは「ところで、ゴム持ってる?」と聞いてきたので、ポケットの中に入っていたゴム製の指サックをとりだしました。

「ぎゃはははははは~! 今度はそうくるか! マジあんた、お笑いやりなよ~」

「これじゃ駄目なのか。でも、これしかもってないんだ」

「しょうがないなあ、じゃあ、ミクの持ってるの使うからいいよ」

 一緒に近くの草むらに入ってみたらミクが抱きついてきて、ぼくの口に唇を付けてきました。茶色い髪が鼻先に触れ、果物みたいな匂いがしました。

「ねえ、口あけてよ」と言うので口を開きました。すると口の中に舌を入れてきたので、びっくりして口を閉じました。とっさのことだったので舌を噛んでしまいました。

「イタイ! なにすんの~!?」

「いや、ごめん。ついびっくりしちゃって」 

「もしかしてあんた、キスもしたことないわけ?」 

「ないよ。女の人と話すのもかなり久しぶりだし」 

「へえ。ウブなんだあ。20歳でしょ~? 顔もイケてんのに、親が厳しかったのかな?何かそれって、貴重かも~。じゃあね、ミクが色々教えてあげるから、大人しく言うとおりにするんだよ?」 

「ああ、わかった」

 ミクはまた舌を入れてきました。なんだか不思議な感触です。

「あんたも舌を動かしてよ」と言われたので、その通りにしました。そのうちズボンごとパンツを脱がされました。そしておもむろに、おちんちんをくわえてきたのです!

「汚いよ、そんなことしちゃ!そこはおしっこがでるところだ」

「いいからいいから、黙ってて」

 そのままにしていたら、なんだか気持ちよくなってきました。「ミクのも舐めて」と言うので、パンツを脱がしました。

 ミクはぼくの顔に性器を向けました。複雑な形をした筋のようなものがありました。こうして間近に見るのははじめてなので、しばらく見入っていました。なんだか、貝の中身に似ているなと思いました。

「早く舐めてよ~」というので、舐めてみることにしました。しょっぱくって、味も貝のようだと思いました。必死で舐めているうちに、ねばっこい液がどんどんあふれ出してきました。

 ミクはおちんちんから口を離し、ぼくをひざ立ちにさせました。おちんちんは、ちょうど朝起きたときのように硬く大きくなっていました。そしてミクはカバンの中から、ふくらませる前の風船のようなものを取り出してみせました。

「それがゴム?」 

「うん。ミクが口でつけたげる」

 ミクはそれを口に入れるなり、器用におちんちんを包みこみました。

「あんたのおちんちん、チョーでかいよね」

「そう?」

「ミクが今まで見た中で、一番おっきいよ。こんなの入るかな?」

「入る?」

「だから、ここにだよ」と言ってミクは、左手で性器の筋を広げました。そこには深い穴が開いていました。 

「うわ~。そうなってるんだ……。で、そこに、入れる?」

「そうだよ。早くあんたのおちんちん、入れて!」

 ぼくはミクの性器の穴の中に、ぼくのおちんちんを入れました。なんだかやわらくて、これまた不思議な感触です。

「で、おちんちんがおまんこから抜けないようにして、腰を前後に動かすの」

「おまんこ?」

「それも知らないんだ? 面白いね。おまんこってのは、ここのことだよ」

 と言って、ミクは自分の穴を指差しました。

「国語辞典には載ってなかったから、なんていうのか、ずっと気になってたんだ」

「ぎゃははははは。ま~た変なこと言ってるし。まあいいから、腰動かしてよ」

 ぼくは腰を動かし始めました。なんだか、とても気持ちがいいです。

 ミクの息が、スポーツをしている時のように荒くなってきました。ぼくの息も同じようになってきました。

 突然、「ああ~ん! いいっ!すごくいい! こんなの初めて~!」とミクが言ったので「な、何が、初めて?」と聞きました。

「……こ……こんな! ……おっきい……の! ……初めて……なの!アア~ン!」なんだか、苦しそうです。

「だ……大丈夫?」

「……なにがあ!?」

「な……なんか、苦しそうだから……」

「ンフッ……ち……ちがうの! 気持ち……いいいいのお!」

 よかった。苦しいんじゃないようです。ぼくと同じように、ミクも気持ちいいのでした。

 しばらく腰を動かし続けていたところ、急におしっこが出そうな感じになってきました。なんだか、今すぐにでも出ちゃいそうな感じです。声を出すとおしっこも一緒に出てしまいそうなので、「……出そう。どうしよ……?」と、何とか必死に言いました。

「……ゴム……してるからあ! いいよ。出して……!」

 本当にいいのかな? と思いましたが、ミクはおちんちんを抜いていいとは言っていないので、思い切ってそのまま、おしっこをしちゃうことにしました。

「ううう……っ!」

 ぼくは声を出しながら、おしっこをしました。その瞬間に、いままでとは比べものにならない、不思議な気持ちよさを覚えました。でもなんだか、普段おしっこする時とは、どうも感覚が違うようです。

「……いいよ、もう、抜いて」

 とミクが言ったので、おちんちんをおまんこの穴から抜きました。おちんちんは柔らかくなって、しぼんでいました。

 その後しばらく、草の上に寝そべったままだったミクは、ゆっくりと立ち上がり、ぼくのおちんちんにかぶせていたゴムをはずしました。するとなんだか、ぼくのおちんちんの先に、白い液が着いているのに気が付きました!

 ウミか!? ぼくは病気なのか? と思い、あぜんとしていると、ミクはゴムの中にたまっていたものを自分の手の平の上に垂らしました。 それもやはり、大量のウミのようなものでした!

 ミクは、それを載せた手の平に唇を近づけ、あろうことか、おソバのようにズルズルと音を立てて、それを飲み込んでしまったのです! これには、あきれてしまいました。

「……ミク、膿を飲み込むなんて不衛生すぎるよ! いくらなんでもやりすぎだよ!」

「あ~そっか、これも知らないんだ?これはね、セイシだよ」

「セイシ?」

「うん。赤ちゃんのできるモトの、片割れ」

「赤ちゃんだって?」

「ぎゃはははは。何かまるであんたって、小学生みたいだよね。セックスすると赤ちゃん出来るの、知らなかったの?」

「何だって? ……すると、ぼくらの赤ちゃんが産まれるのか?」

「まさか~。今はゴムしてたから平気だよ。おまんこにセイシが入っちゃうと、赤ちゃんができちゃうんだよ」

「……そうだったのか……すると、おちんちんをおまんこに入れるのが、セックスってこと?」

「そうだよ」

 そうだったのです! こうしてぼくはやっと、セックスというものを知ることができたのです!

 でも、どうしてミクは、その赤ちゃんのモトであるセイシを、おソバのようにすすったりしたのでしょうか?

「あんたのこと気に入ったからだよ。これはミクなりのあんたへの愛情表現なんだよ」とミクは答えました。

「セイシを飲み込むことが俺への愛情表現?」

「そうだよ」

 セックスとともに愛情というものまでも覚えることが出来たってことです。セックスして、本当によかったと思いました。気持ちのいいものだという事も、わかりましたし。でも色々と覚えることもたくさんあってすごく疲れるものだったので、もう、うんざりだ、とも思いました。

「そういえば、お金払うんだっけ?」

「いいよ、気持ちよかったから」

「普通は払うものなんだろ?」

「そんなことないって。ミクもあんたのこと、気に入ったんだから」

「そういう場合には、払わなくていいのか?」

「そうだよ。その代わり、また会おうね。約束だよ」

 そういってミクは、携帯電話の番号を書いたメモをくれました。部屋に電話がないので工場の番号を教えました。

 帰りの電車で今日のことを活かして続きを書こうと構想を練り、家に着くなり鉛筆を走らせました。



    ぼくのしょうせつ【うんこたろう②】


   げすいどうをながれていたうんこに、てんから、しろいうみのようなものが、ふりそそいできました。それはだれかの『せいし』でした。たぶん、このげすいどうのうえで、だれかが『せっくす』をしていたのでしょう。それからしばらくして、がんじょうなうんこのなかに、あかちゃんができました。じつは、うんこはおんなのひとからうまれたものだったからです。おんなのひとの『おまんこ』と『おしり』は、ちかいところにあるので、うんこがうまれたときに、おんなのひとのなかのあかちゃんのもとも、まじっていたのです。こうして、なかにあかちゃんがはいったとくべつなうんこは、げすいどうから、かわへとながれていきました。



 ここでまた、続きが書けなくなってしまいました。どうにかうんこから赤ちゃんが産まれる話にはできましたが、それでもやっぱり、うんこを拾う人がいるわけがないのには変わりありません。

今日はここまでにしようと思いました。まだ寝るには早いので、さっき新宿で拾ってきた雑誌を読み始めました。セックスのほかにも、何かためになることが書いてあるかもしれない、と思ったからです。

 しばらく読み進めているうちに、気になる記事が見つかりました。『小説家・武者小路実篤の代表作「愛と死」、「友情」に学ぼう!』というものでした。「友情」とは、友達を愛することだそうです。異性同士の愛情は恋愛で、同性同士の愛情は友情と呼ぶことが多いのだそうです。異性同士でも友情は芽生えるけれど、それは難しいとも書いてあります。そして最後に、親友との友情を深めることによって、豊かな人生を送れるのです、となっているので、多分、友情は大切なものなのだろうと思いました。そしてぼくには、仕事の仲間はいるけれど、友達とか親友というものがないということにも気が付きました。

 異性との愛情である恋愛は教えてもらいましたので、今度の休みの日には、親友を探しに行こうと決めました。

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