第6話
それから何度か依頼をこなし、今日は彼女が希望する依頼を受ける事になった。
向かった先は、街外れにあるダンジョン。寂れた風情もあるが、それはここに来る冒険者が少ないから。
理由は端的に、凶悪な魔物が出るからだ。
「街から近くて、程よい魔物が出る。良い場所ですね」
強い冒険者ならではの発言。逆にそうで無い者からすれば禁忌とも呼べる場所で、自然と訪ねてくる人数は限られてくる。
腕が6本あった骸骨を倒したところで、一旦休憩を取る。
といっても凶悪な魔物が出現するダンジョン内。完全に気を抜く訳にはいかない。
「剣を振るって敵を屠り、宝箱を開けて財宝を得る。これこそ冒険ですよ」
意気揚々とティアラをかざす女性。
錆びた銀製で、宝石も何も付いてはいない。ただ言いたい事は、俺にだってよく分かる。
成り行きとはいえ冒険者となった以上、彼女が言ったような夢を思い描いた時もあった。ただそれには、相応の実力と運が必要。またそのどちらが揃っていても、時期が悪ければ叶わない時もある。
俺はどれも足りず、今に至っているが。
「まあ、楽しいよ」
素直に感想を告げ、水筒に口を付ける。
無償に近い依頼を苦だとは思わないし、レアアイテムを入手する手段だとすればなおさら。
ただあの行程は、こういった面白さとは無縁。一つ一つの状況をなぞり、疑い。どこかにレアアイテムを入手する手がかりがないかを、ひたすらに考え続ける事の連続。
それ自体の醍醐味はあるが、面白いと思った事は無い。
「またこういう依頼を受けましょうね」
「ああ」
「約束ですよ」
俺から水筒を受け取り、それに口を付ける女性。彼女はその水筒を軽く掲げ、爽やかに笑って見せた。
依頼品の宝剣をギルドの受付で、受付嬢に提出をする。
「無事依頼が完了したようで、何よりです」
普段通りの、事務的な対応。
俺はそれなりの報酬を受け取り、受付を後にした。
「せっかくの報酬です。今日は派手に散財しましょう」
「以前と、言う事が違うな」
「私とあなたの、初めての冒険ですからね」
軽く抱かれる肩。
それに苦笑しつつ、俺も彼女の肩に手を回す。
「確かに報酬が野菜では、冒険とは呼べないな」
「そこまでは言いませんが、とにかく今日は飲みましょう」
「今日も、な」
俺と彼女は肩を抱き合ったまま、夜の街へと繰り出した。
その後も何度か彼女と冒険を共にし、今日はダンジョン探索を終えたところ。どの依頼を受けるかは基本交互にしていて、今日は彼女の番だった。
依頼品である魔狼の爪を、ギルドの受付で受付嬢に提出をする。
「無事依頼が完了したようで、何よりです」
普段通りの、事務的な対応。
俺はそれなりの報酬を受け取り、受付を後にした。
「今日は結構な報酬になりましたし、派手に散財しましょう」
「今日も、だろ。段々、冒険者が板に付いてきたな」
「それは褒め言葉ですか?」
くすくす笑い、俺の肩を叩く女性。以前に比べてくだけてきたというか、良い意味で気安くなってきた。
特に身体への接触が増えたというか、俺も男性なのでその辺は多少気に掛かる。
俺達が腰を落ち着けたのは、いつもの酒場。程よい喧噪と美味しい食事、飾らない雰囲気が性に合う。
「それ、よく食べますね」
「美味しいだろ」
俺が食べてるのは、辛く味付けされた鳥の唐揚げ。と言っても多少辛い程度で、むしろ酒が進むと思うくらいだ。
「毒ではないのですか、それは」
「食べ物については保守的だよな」
辛みの元はおそらく唐辛子で、この辺りでは最近扱い始めた物らしい。ただ冒険者には刺激が好まれるのか、俺以外の連中も唐辛子の入った食べ物を結構な頻度で頼んでいる。
「無理にとは言わないけど、一口くらい食べてみたらどうだ」
「騙してませんか?」
「そういう問題ではないんだが」
唐揚げをフォークで切り分け、欠片を彼女の皿に載せる。
彼女はそれを自分のフォークで差し、おそるおそる口へと運んだ。
一瞬顔がしかめられ、赤くなり、すぐにジョッキへ手が伸びた。
「これ、ちょっと、これっ」
「済みません、もう一杯」
近くを通った猫耳の女給にジョッキを掲げ、運ばれてきたそれを女性の前へ滑らせる。
「これ、ちょっと、これっ」
「もういいよ」
「良くないですよ。これ、辛くて、お酒がもう。辛くて、お酒が。済みません、もう一杯。いや、二杯」
すぐに追加が頼まれ、気付くとテーブルの上はジョッキと唐揚げで一杯になって来た。
「これ、何か良くない物が入ってます? お酒がどんどん入っていくんですけど」
「良くない物は入って無いけど、飲み過ぎは良くないな」
「でも、これを食べるとお酒がどんどん入っていくんですよ」
それは自分の匙加減次第だろ。
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