第5話

 結局依頼は俺が拾った埴輪風の土人形と、塔のスケッチを受付に提出する事とした。

 さすがにあの絵は提出出来ないし、したら背後から刺される気配に満ちている。

「無事依頼が完了したようで、何よりです」

 普段通りの、事務的な対応。

 俺はささやかな報酬を受け取り、受付を後にした。

「それはどうするんですか」

 彼女が言うそれとは、俺が袋に入れている動物風の土人形。なんとなく猫っぽいが、犬か他の獣かも知れない。

「これを出しても依頼の報酬は変わらないし、家に持って帰る。この国では何の価値もないし俺もこれの価値は見いだせないが、装飾品にはなるだろ」

「価値は無いのですか?」

 なんとなく鋭くなる視線。

 俺が無報酬に近い依頼を受けている理由。つまり何か特殊なアイテム、もしくは非常に高価な素材を集めているという噂は根強く存在する。

 そんな俺が家に持ち帰る物なら、余程の代物だと考えているようだ。

「欲しいなら譲るが」

「良いのですか」

「あの遺跡に行けばいくらでも拾える」 

 俺があっさり手放した事に拍子抜けした様子。ただ少しの笑顔が浮かび、彼女はその頭を軽く撫でた。

「さっきの猫に似てますね」

「ああ」

「・・・・・・私の絵とは似てないとでも?」

「何も言っていない」

 軽く叩かれる肩。 

 俺はどうにか言い訳を考えつつ、彼女と連れだって夜の街へと向かった。



 それから何度か依頼をこなし、今日は彼女が希望する依頼を受ける事になった。

 向かった先は、街外れにあるダンジョン。寂れた風情もあるが、それはここに来る冒険者が少ないから。

 理由は端的に、凶悪な魔物が出るからだ。

「街から近くて、程よい魔物が出る。良い場所ですね」

 強い冒険者ならではの発言。逆にそうで無い者からすれば禁忌とも呼べる場所で、自然と訪ねてくる人数は限られてくる。

 腕が6本あった骸骨を倒したところで、一旦休憩を取る。

 といっても凶悪な魔物が出現するダンジョン内。完全に気を抜く訳にはいかない。

「剣を振るって敵を屠り、宝箱を開けて財宝を得る。これこそ冒険ですよ」

 意気揚々とティアラをかざす女性。

 錆びた銀製で、宝石も何も付いてはいない。ただ言いたい事は、俺にだってよく分かる。

 成り行きとはいえ冒険者となった以上、彼女が言ったような夢を思い描いた時もあった。ただそれには、相応の実力と運が必要。またそのどちらが揃っていても、時期が悪ければ叶わない時もある。

 俺はどれも足りず、今に至っているが。

「まあ、楽しいよ」

 素直に感想を告げ、水筒に口を付ける。

 無償に近い依頼を苦だとは思わないし、レアアイテムを入手する手段だとすればなおさら。

 ただあの行程は、こういった面白さとは無縁。一つ一つの状況をなぞり、疑い。どこかにレアアイテムを入手する手がかりがないかを、ひたすらに考え続ける事の連続。

 それ自体の醍醐味はあるが、面白いと思った事は無い。

「またこういう依頼を受けましょうね」

「ああ」

「約束ですよ」

 俺から水筒を受け取り、それに口を付ける女性。彼女はその水筒を軽く掲げ、爽やかに笑って見せた。


 依頼品の宝剣をギルドの受付で、受付嬢に提出をする。

「無事依頼が完了したようで、何よりです」

 普段通りの、事務的な対応。

 俺はそれなりの報酬を受け取り、受付を後にした。

「せっかくの報酬です。今日は派手に散財しましょう」

「以前と、言う事が違うな」

「私とあなたの、初めての冒険ですからね」 

 軽く抱かれる肩。

 それに苦笑しつつ、俺も彼女の肩に手を回す。

「確かに報酬が野菜では、冒険とは呼べないな」

「そこまでは言いませんが、とにかく今日は飲みましょう」

「今日も、な」

 俺と彼女は肩を抱き合ったまま、夜の街へと繰り出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る