楽しい旅行

第5話 夏休みのレジャー

 お楽しみの夏休み。俺達は出発をした。


「行くところが、ぱっとしないのが辛いわね。もっとこうリゾートとかさぁ」

 新田 玲奈にった れいながぼやく。


「どこに金があるんだ?」

 彼氏である蛇川 淳へびかわ あつしが運転をしながらぼやく。

「それはそうだけどぉ。言ってみただけじゃない。淳、私が好きなら頑張って。私を沖縄へ連れて行って♡」

「運転中だ。驚かすなよ。心臓が止まるかと思ったぞ」

「ええっ? 死ぬなら先に車を止めてよ。危ないから。それよりねえっ、沖縄行きたーい。その位良いじゃない。がんばれ」



 そんな甘い? 雑談が、運転席と助手席。

 セカンドシートは俺達守社 龍清もりや たつき深瀬 美優希ふかせ みゆき。一応、今から行くところの下調べをしている。


 そう、サードシートから聞こえる音から、気をそらすためというのもある。

 橋口 祐司はしぐち ゆうじ岩瀬 加奈いわせ かなの二人だが、仕切っていたのは最初だけで、祐司の「おい。やめろ」とか言う声から後、なまめかしい水音がし始めた。


「若いからなぁ」

 美優希の耳元へ口をよせて、小声でささやく。

「もう。気にしないの」

 そういわれて、まあ、資料名『橋口プロデュース。真夏の神秘体験。SDGsエス・ディー・ジーズなエコシステム。持続可能な自然の涼しさを体験』を引っ張り出した。


 最近彼は、やっと理解をして使い始めた。少し前まで彼に読ませると、すぐできるガールズプロジェクトだと思っていた様だ。女性の社会参加で少子化もあるし、そう、企業が本気で、ブライダル計画として、そんなふざけたことを始めたのだと理解していた。

「ほら、しないとさぁ。相性とかもあるじゃん」

 そう言って彼は本気だった。


 俺達の色々な欲望を乗せたワンボックスは、アマゴ釣りができる養殖場へと山道へ入って行った。


 徐々に山が迫ってきて、曲がりくねった片側一車線の対面通行道路脇は深い谷で、谷底には川が流れている。ガードレールはあるのだが、落ちると終わりだろう。

 川と言っても上流のため、結構岩がゴツゴツと川底から突き出している。


「なんか、エアコンの効きがよくなった?」

 助手席の玲奈がふと言った。

「ああ、結構下がったな」

 

「標高が高いし、川の水温が低いんだろ」

 サードシートから、祐司の声がする。

 いちゃつきタイムが終わったようだ。


「いよーし、そこを左折」

 結構狭かった道だが、釣り堀のある養殖場は、細めの川に沿ってさらに山奥へ入る。


「りょうかぁーい。取り舵一杯ぃぃ」

 入り口には、畳一畳くらいのよくある看板が立っていた。

 ひどく苔むして、すっかり小汚くなっていたが、一応道は間違いがないようだ。


「うえーい。対面路だ。気を付けろぉ。落ちるなよ」

「らじゃぁ」

 道にはセンターラインがなくなり、対面路へと変わった。


 対向車がくれば、避けられるところまで、バックするしかない。

「おい。おい。おい。せまいぞぉ。きをつけろおぉ」

 こんな道にくると、ついつい口調が、どうでしょうになってしまう。

 俳優さんが、ひたすらぼやく番組だが、とても人気があるのだ。


 だがまあ、心配を余所に何とか到着。

「ついたぁ。うわぁ。少し寒い」

 女の子が、パーカーを引っ張り出す。

 

 そこは、鬱蒼とした森が覆い被さり、到る処から水が噴き出していた。

 そのおかげか、気温が低い。そしてなんだか、空気が濃いような気がした。


「ようこそ、いらっしゃいました。ご予約はされていますか?」

 あやしい動きをする、元お姉さんが俺達に聞いてくる。

 きっと五十年前は、おねえさんだっただろう。


「予約している橋口です。釣り体験とバーベキューでお願いしているはずです」

 手に持ったメモ帳と、右手のボールペンが、小刻みに震えているのだが、それに何かをメモして小屋の中へ入って行った。


「すごい技術だな」

 橋口が、呆然としながらぼやく。

「何が?」

 そう言って両手を目の前に出すと、手の平を広げて左右をバラバラにに揺する。

「お前、紙とペンを、両方を動かしながら文字が書けるか?」

「無理だな」

 そうだな。それはすごいぞと、謎の尊敬が皆の心に湧く。


「いらっしゃい。ませぇ」

「「「「うわぁぁぁ」」」」


 突然声をかけてきたのは、元お兄さん。

 皆が振り返ってみるとじいさんはにまにましている。

 こいつは、もとお兄さんじゃねえ。お前なんかじじいだじじい。


 彼は、いつのまにか俺達の背後に立っていた。

 だがその表情から、やってやったぜと言う心が透けて見える。

 いい加減、ジャバジャバと、水音が周りに氾濫をしている場所。

 少し足音を消せば、驚かせる事など造作もないだろう。


「じじいめ」

 つい口に出してしまう。


「釣りじゃな。サイズはどのくらいがいい?」

 じいさんは適当に両手を広げる。


 だがなんとなく、玲奈の誇るEサイズの胸を、エアマッサージしているように見える。

「小さいよりは大きめで」

「はいよ」

 じいさんは段々畑のようなプールを、少し下流へと向かう。


 一番下のプールは出荷間際の魚が居るようだ。

 かなり大きい。

 じいさんは、このサイズなら刺身でも食えるぞ。そう言っていた。


 わいわいと言いながら、簡単に釣れるからついつい多く釣ってしまう。

 女の子達に、きゃー取ってとか言われながら。


「おいあれ」

 祐司が指さした方向に、買い取り表が張られていた。

 つまりグラム数と値段が書かれていた。

 キロ二千五百円

 目安的には長さ掛ける百円らしい。


「これって釣った物は、別途買い上げですか?」

「当然じゃ」

 俺達はじいさんに、びしっと切り捨てられた。

 そう、釣ったやつは弱るから戻せない。

 結果、大量のアマゴをお買い上げしてしまい、ついでに氷入りのクーラーバッグを買わせて頂いた。なぜか此処は、新品のクーラバッグを売っていた。


 初っぱなから予想外の出費。

 気を取り直して、バーベキューへと向かう。


 その時、俺たちを見て、じいさんの目が怪しく光っていた。

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