第6話 涼しさ漫喫ツアー

「おぬしら、炭はいらんのか?」

 じいさんが、俺達の荷物を見ていて聞いてきた。


「炭? そう言えば持ってない。もしかして売っていますか?」

「ああ、あるよ。キロ千円じゃ。安かろ。備長みたいな火が付きにくくて、ただ長持ちする炭とは違う。火が付きやすくて、そこそこで燃え尽きる。飯炊きには丁度良い。今風にいやあエコな炭じゃ」

 そう言ってじいさんは、満面の笑顔で、三キロの箱を持ってきた。


 そう三千円を払って使い始めてから、気がついた。

 多分近所にあるホームセンターなんだろうねぇ。

 『あなたのDIYをサポート FBIマホーン。価格398円』

 そんな値札が貼られていた。


 俺達はこそこそと、顔を突き合わせて相談をする。

「まあ、ここまでの輸送費と考えれば安いのか?」

 下の町から、ここまでの道のりは結構ある。

 だけど、運送費と手間賃で二千六百円?

 まるでいま話題の、農作物取り扱い大手かよ?


 だが先ほどの釣りすぎたアマゴと、クーラーボックス。そして炭と。予想外の出費で、俺達の財布はドンドン軽くなっていく。


「まあまあ、気を取り直して楽しもうぜ」

 そしておかしくもないのに、なぜか皆笑い始める。

 そうは言っても男組だけだが、ヘラヘラと謎の笑顔が勝手に出てくる。

 そうして料理が始まる。


「涼しいだろ」

「ああ涼しいや。山は良いなあ」

「だろ」

 妙なテンションで笑いが起こる。


 目の前では、円形に石を積んだかまどで、串に刺さった塩焼きが作られて、その横ではバーベキュー用の窯があり肉が焼かれている。

 そう俺達は、大汗をかきながら世話をしている。



 炭への着火から色々があった。

 着火剤へ火をつけて、ポイポイと炭の上に乗せてただ燃やし消してしまう加奈。

 火を付けるのは得意なの。そう言っていたのに。


 着火剤が無き後。なんとかレスキューをしようとしたが火は消えて俺達は絶望をする。その後、俺達がどれだけ苦労をしたのか。

 ここまで来ると、どのキャリアでもスマホは圏外なんだよ。


 ググれないときの、俺らの無知さよ。

 結局おじいさまを頼ってしまった。

 適当に枯れ枝と落ち葉を持って来て、あっという間に火をつけてくれた。

 とげとげした杉の枝が、火を起こすには良いらしい。

 そして、一度炭が燃え上がり、火が上がらなくなると使い頃だと教えてくれた。


 道理でいままで、焼き加減の調整が難しかったはずだ。


 その頃には女の子達は、飽きてきているし……


 仕方が無いよな。

「もう帰るか?」

 そんなセリフも出てくるという物だ。


 だが、祐司は俺のその言葉を無視する。

「さあ、焼けたぞ」

「食おうぜ」

 そう言って、訳の分からない元気を振り絞る。

 レジャーってこんな感じだったけ?

 多分皆がそう思っていただろう。


 だが、焼きたての塩焼きは美味く評判がよかった。

 ワイルドにかぶりつく。

 魚の下ごしらえも、おじいさまが教えてくれたと言うより、やってくれた。

 俺達が、一匹に掛かりきりでギャアギャアやっていたら、各自に二匹割り当てが行く様に捌いてくれた。


 そして、ふと気がつく。

 俺以外の奴らが、皆ビールを咥えていることに……

「おい」

「俺はここまで運転をしたし、もう良いだろ」 

「そうだな。だが祐司はどうだ?」

 男二人が睨み付けるが、焼き魚をぱくぱく。そしてビールをゴクリ。

 

「おれ、道を知らないし」

 そう言ってあっさりという。


「なあ? この計画を立てたの誰だ?」

「うん? 俺だよ」

 そう、祐司だ。


「それで、道を知らないって何だ?」

「そう言われてもなぁ。洞窟が主で、『周辺。レジャー』をキーワードにして検索で見つけたからな」

 そう、祐司にとって、あくまでも洞窟探検が主なのだ。


「洞窟探検をするのに、酔っ払いは駄目だろう?」

「大丈夫。そんな注意書きはなかった」

 祐司はそう言ったが、やはり注意書きに書かれていた。


 騒動をしながら、飯を食い。

 だらだらと片付けをして、一時間ほど時間が押して夜持津洞よもつほら冒険コース体験へと行った。

 道はナビにお任せをしたよ。スマホの電波は届かなくとも、GPSは衛星だから大丈夫だった。


 そして俺達が、探検用装備の準備をしていたら、祐司が泣きながら帰って来た。


「一時間も遅れて、さらに酔っているとは何事だって叱られたぁ」

 そう言って半泣き。

「ヘー。だろうな。それで行けるのか?」

 無論探検の心配だ。

「駄目って言われた。さらにガイドさんの手間賃だと言って半額取られた」

 どうやら、一時間遅れで到着というのも問題だが、酔っているのが致命的らしい。


『こう言うところでも、気を抜けば怪我をするし命を落とすこともある。一般の観光洞窟とは違うんです』

「そんな感じで叱られた。だけど結構な美人お姉さんで、何か叱られているとゾクッてきた」

「変態。じゃあ仕方が無い、帰るか」

 そう言ったら、謎のサムズアップ。


「いやキャンプ場だ。明日の朝予約をした」

「ああっ?」

 ふざけたことに朝一のコースを予約したらしい。

 料金が安かったとか。


「ふざけんなよお前」

「良いじゃないか。明日は、適当にふらつきながら帰るだけだったんだし」

 そう言って俺達は、二時間巻きで裏谷うらたにのキャンプ場へと向かった。


 それがすべての間違いだった……

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