第7話 ドラちゃんのお風呂
「ドラちゃーん、おふろの時間だよー」
その日、村は穏やかな晴れ。
コウは、バケツと桶とタオルを抱えて、川辺に立っていた。
横にはミナが手を腰にあててスタンバイ。
準備は万端。あとは、肝心の本人――いや、本竜(ほんりゅう)を洗うだけだった。
「最近、ちょっと土くさいもんね。きれいにしようね」
「きゅっ……?」
何かを察したドラちゃんが、そろり……そろり……と後ずさる。
「ドラちゃん、逃げてもムダだよー」
「きゅぅぅっ!!」
ダッ!
ドラちゃん、全力ダッシュ!
「ちょっ、ミナ! 捕まえてー!」
「まっかせてっ!」
森の中を駆け回る、子ども2人と1匹(1竜)。
タオルが飛び、桶が転がり、バケツの水がびちゃっと舞う。
「ドラちゃーん! 水がこわいのー!? きれいになったら気持ちいいのにー!」
「きゅっ! きゅっ!!」
断固拒否。と言っている様だ。
コウが滑って転び、ミナは草に足を取られて座りこみ、
ドラちゃんは石の上でドヤ顔してしっぽをくるり。
「うーん……こうなったら最終手段だ!」
コウがポケットから、森の甘果(かんか)ジャムを取り出す。
「ドラちゃん、これ。ちゃんとお風呂に入ったら、あとで全部あげるよ」
「……きゅ?」
「おふろ終わったら、ジャムパン祭りね」
「…………」
ドラちゃん、じーっ……。しばし葛藤の末――
「きゅぅ……」
ついに観念して、ぺたりとコウの足元に座った。
「よしっ!」
⸻
そして始まった、ドラちゃん丸洗いタイム。
バシャバシャと水をかけられ、ミナにブラシでゴシゴシされ、
コウにしっぽまでタオルでぐるぐる巻かれて、
全身からふわっと湯気のような毛の香りが立ち上る。
「はい、おしまーい!」
川辺にぺたりと座ったドラちゃんは、全身ふわふわ。
しっぽは風でゆらゆら、なんだかサイズが1.2倍くらいになった気がする。
「ドラちゃん、ぬいぐるみみたい〜!」
「きゅ……」
ドラちゃんはちょっとだけ気に障ったのか、黙ってコウの足元に寄り添って丸まった。
⸻
その日の夕方。
ドラちゃんは、コウのひざの上でぐでぇ〜っと寝そべりながら、
パンの端に乗った甘果ジャムを、ぺろりと舐めていた。
「やっぱり……ドラちゃんも綺麗になったほうが気持ちいいよね」
「きゅ……」
毛並みが良くなりぴかぴかのしっぽが、静かに揺れた。
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