第4話 ドラちゃん、火を吹く

ある晴れた午後。

昼食を済ませたコウとドラちゃんは、縁側でのんびりまどろんでいた。


「ふぁぁ~……あったかくて、ねむ……」

「きゅぅ……」


ぽかぽか陽気と満腹感に包まれて、ふたりはウトウト。


そのときだった。


ドラちゃんの鼻先に、ふわりと白い蝶々が舞い降りた。

「きゅ……?」


一瞬きょとんとした表情を浮かべたドラちゃんだったが——


「きゅっ、くしゅんっ!!」


蝶々のくすぐったさに耐えきれず、勢いよくくしゃみが出た。


――ぽっ。


「……ん?」


そらと同時に、ドラちゃんの口から、小さな火の玉がふわっと飛び出した。


ボワッ


縁側の木材がほんのり焦げる。


「えっ!? いま火、出た!? ていうか縁側がぁぁ!!」


「きゅっ!?」


ドラちゃん自身もびっくりして、慌てて縁側をごろごろ転がる。

火消しのつもりのようだ。


「ドラちゃん……流石にただの犬じゃないって認めるよ……」



その夜。

ドラちゃんは庭で、こっそり火を吐く練習をしていた。


「きゅっ……ん~~……ぽっ……」


小さな火の玉がぽっ、ぽっ、と灯る。

それを見守っていたコウは、こっそり声をかけた。


「明日からは薪に火をつける係、ドラちゃんにお願いしようかな」


「きゅっ!」


ドラちゃんは誇らしげに胸張った。




——


森の中の広場。

この村にはこうとドラちゃん以外にも何人かの子供達がいる。

今日は村の子どもたちが集まって、にぎやかなピクニックの日。

コウとドラちゃんも、いつものように森で集めた果物を持って参加している。


「ドラちゃん、こっちの果物も甘かったよ~」

「きゅっ!」


ドラちゃんは嬉しそうに尻尾をくるくる回しながら、果物をぺろり。

そんな様子に、年下の子どもたちが近づいてきた。

ドラちゃんは子供達の人気者だ。


「ねえドラちゃん、ちょっとだけ……くすぐっちゃえ~!」


「きゅっ!?」


わき腹をくすぐられて、ドラちゃんの体がびくんと跳ねる。

ちょっと目を見開いて、しっぽをバタバタ。


さらにくすぐられて——


「きゅっ……ぷふ……! ぷぷぷっ……!」


ぽっ!!


小さな火の玉が、パッと口から飛び出した!


「うわっ! 火!? 火出たー!!」

「ドラちゃん、火吹けるの!?」


子どもたちはざわめき、コウも慌てて飛び上がる。

ドラちゃんは子供達の反応にびっくりして恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして、しゅるんと草むらに隠れようとする。


「もしかして……くすぐると、火が出る!?」


子どもたちの目が一斉にキラリと光った。

「スイッチ発見ー!」「火吹きドラちゃん追えー!」


「ちょ、まっ……! あぶない!森が燃えちゃうよー!!」


広場に響きわたる、ドラちゃんの「きゅ~~っ!!」と子どもたちの笑い声。

全力で逃げるドラちゃん、でも動きがドタバタしてて、つい捕まってしまう。


最後は、くすぐられすぎて疲れ果て、焦げた葉っぱの上でぐで~っとふて寝。


「……きゅぅ」


コウがそっと寄り添って、頭をなでる。

ドラちゃんは目を細めて、ちょっとだけ尻尾を振った。

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