第3話 森の恵み

「うわっ、また見つけた!」

コウは木の根元にしゃがみこみ、ひときわ赤くてぷるぷるした果実を摘み取った。


頭の中には、ポワンと光るイメージが浮かぶ。

まるで“果物の気配”が感じ取れるようになった。


《スキル:果実センサー Lv1 発動中》


「こっちにもあったよ、ドラちゃん!」

「きゅーっ!」


ドラちゃんがぴょこぴょこ駆け寄ってきて、尻尾をくるくる回す。

ふたりは夢中になって森の中を駆け回り、おいしい果物を袋いっぱいに集めた。


「今日は、おじいちゃんにもおすそ分けしよっか」

「きゅ!」


――その夜。


縁側で茶をすするおじいちゃんの前に、山盛りの果実が運ばれる。


「ほう……今日はまた、ずいぶんと豪勢だな」


「ドラちゃんと一緒に見つけたんだよー! すっごく甘いよ!」


「きゅいっ!」


ドラちゃんは誇らしげに胸を張る。

おじいちゃんは果実をひとつ手に取り、ひと口かじって目を細めた。


「……ふむ、これは“あっちのほう”の果実だな……」


ぽつりと、そんな独り言をこぼす。

だが、すぐに笑ってコウの頭をぽんぽんと撫でた。


「まぁ、ドラ坊が一緒なら……大丈夫か」



——

その日も、森は果実の香りであふれていた。


「ドラちゃん、こっちの果実、すごく甘そうだよ!」

「きゅきゅっ!」


スキル《果実センサー》が大活躍。ふたりは両手いっぱいに赤やオレンジ、紫色の果物を摘み取りながら、満面の笑みを浮かべていた。


家に戻ると、机の上はカラフルな果実で山盛りに。


「……さすがに、こんなに食べきれないね」

「きゅ~」


そのとき、ふとコウがひらめいた。


「そうだ! ジャムにしてみよう!」


森で集めた果物が、机の上にどっさり山盛りになっていた。


「うーん……こんなにいっぱい食べきれないし、どうしようか……」

「きゅう~(訳:ボクもうおなかパンパン)」


そのとき、コウの頭にひらめきが走った。

少し前におじいちゃんがおやつに出してくれた、小さな瓶に入ったジャム。


ほんのり甘くて、果物の香りがふわっと広がって……

パンにつけて食べたその味は、コウの舌にしっかりと残っている。


思い出すだけでよだれが出そうになり、

コウは勢いよく立ち上がった。


「……よし、ジャムにしよう! おやつにもなるし、保存もできるし!」


でも――。


「ジャムって、どうやって作るんだろう…」


まえにたべたしゃむは、確か雑貨屋のお姉ちゃんのおすそ分けだと言っていた気がする。


急いで村の雑貨屋へ駆け出した。



雑貨屋の軒先では、若い女性が仕入れた商品の仕分けをしているようだった。

明るい栗色の髪を三つ編みにし、エプロン姿で笑顔がよく似合う。



「おねーちゃーん! ジャムの作り方教えて!」


「コウくんにドラちゃんじゃないの。どうしたの? ふたりでまた森に行ってきたの?」


「うん! 美味しい果物いっぱい見つけたから、ジャムにしようと思って!」


「きゅっ!」


ドラちゃんはくるりと回ってポーズを決める。

お姉さんは思わずくすくすと笑った。


「ふふ、今日も元気ねぇ。……じゃあ、特別に“秘密のジャムレシピ”を教えてあげようかしら?」


「ほんと!?」


「うん。果物を潰して、お砂糖を入れて、弱火でコトコト煮るの。泡が出てきたらアクを取って、あとは焦げないように混ぜるだけ。簡単でしょ?」


「お砂糖ってどのくらい?」


「うーん、果物の甘さによるけど……味見しながら“美味しい”って思ったところで止めればいいのよ」


「それってけっこう雑じゃ……」


「コウくんが作るんだもの、世界で一番の味になるに決まってるわ」


そう言ってお姉さんは、コウの頭を優しくなでた。

そしてドラちゃんにも、ほっぺにちゅっとキスを。


「きゅ~~~~!」


お姉さんに見送られ、ふたりはジャム作りに挑戦するのだった。



初めての料理に胸が高鳴る。

鍋に水を入れて、果実を潰して……火にかけて……お砂糖入れて……


「……んー? こんな感じでいいのかな……」


ぐつぐつ煮ているうちに、部屋中にあま~い香りが立ち込めた。

だが次の瞬間——


ボフッ!!!


「うわっ!? 泡立ちすぎた!?」


鍋が吹きこぼれ、台所は赤紫色の粘液まみれに。

焦って木べらでかき回すコウ、爆笑しながら逃げ回るドラちゃん。


「待ってドラちゃん、床にジャムの足跡が! 床にジャム跡がつくぅ!!」

「きゅきゅきゅ~~!!」


なんとか一部を救い出し、小瓶に詰めたそれは……見た目こそアレだが、香りは良い。


「ドラちゃん、ちょっと味見してみて」

「きゅ……(ちょん)」


ぺろっ——


「……きゅ?」


もぐ、もぐ……


「きゅうう~~っ!!」


「やったぁ! 成功だー!!」


ふたりはジャムでベタベタになりながらも、大満足の笑顔を浮かべた。

完成したジャムは、すぐにお姉ちゃんに渡しに行った。

もちろん、おじいちゃんにもおすそ分け。



「……見た目はアレだが、味は悪くない。うむ、才能があるかもしれんのう」


おじいちゃんのその一言に、コウはちょっと照れくさそうに笑った。

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