第2話 森の奥には、楽しいがいっぱい!
朝の陽ざしが差し込む田舎の村。今日も元気に、コウとドラちゃんは走り回っていた。
「ドラちゃーん、こっちだよー!」
「きゅうっ!」
まだ小さな体のドラちゃんが、コウの後をぴょこぴょこ追いかける。ふたりが向かうのは、村はずれの森。
木々の間をすり抜けながら、虫を追いかけたり、どんぐりを投げ合ったり、ふたりはとにかく遊ぶのに夢中だった。
あっ、ドラちゃん、また見つけた!」
コウが草むらの中にしゃがみ込み、赤くて小さな果実を摘み取る。
まるくて、つやつやしていて、ちょっと甘酸っぱい味。
最近ふたりのお気に入りだった。
「これ、美味しいよね~」
「きゅう!」
ドラちゃんも口をぱくぱくさせながら、嬉しそうに果実を食べる。
ふたりは夢中で探し続けた。
一つ見つければ、また次の一つ。そのまた先に、もっと真っ赤な実がある気がして。
気がつけば――
「……あれ? ここ、どこだろ」
木々は深く、空は枝で隠れてほとんど見えない。
見たことのない苔の生えた岩、妙に静かな空気。
「これって、もしかして……村の人が入っちゃダメって言ってたとこ?」
コウが言い終える前に、ドラちゃんの耳がぴくりと動いた。
森の奥。知らない気配。ふたりは、静かに立ち止まった。
「なんか……変な感じがする」
木々のざわめきが重たく感じる。ドラちゃんの耳もぴくりと動いた。
そして——。
そのときだった。
――ガサッ、ガサガサッ。
不意に、茂みの奥から不穏な音がした。
ドラちゃんがピタリと動きを止める。耳がぴくりと震えた。
「……なにか、いる?」
コウがそう呟いた瞬間――
ズガァン!!
木の枝を弾き飛ばしながら、漆黒の塊が飛び出してきた!
それは、黒いけむくじゃらの魔物だった。
全身を分厚い毛で覆い、猿のような四肢と、狼のような顔。だがその目はぎらつく赤で、獲物を見つけた猛獣のような光を放っている。
口を開けば、黄色く染まった牙がぎっしりと並び、よだれが滴り落ちていた。
「ギャアアアアッ!!」
濁った咆哮を上げながら、魔物はまっすぐドラちゃんに向かって突進してくる!
その一歩ごとに、地面が揺れ、落ち葉が舞い上がった。
コウは息を呑み、足がすくみそうになった。
――でも!
「ドラちゃんは僕が守るんだっ!」
バシッ!!
棒切れで必死に魔物の鼻先を力いっぱい叩く。だが、魔物は唸り声を上げて、さらに凶暴に迫ってくる!
そのとき——。
「キュウウウウウッ!!」
怒りに震える声とともに、ドラちゃんが魔物の顔めがけて飛びかかった!
小さな体に似合わぬパワーで、ガブリッ!
「ギャウウ……!」
魔物は抵抗する間もなく、あっさり倒れてしまった。
「……つ、強い……」
ドラちゃんは口の端に黒い毛をつけながら、コウの方を振り向く。
「まさか……た、食べた……?」
ふたりはしばらく見つめ合った後、どっと笑いあった。
そして、森の奥から村に向かって駆け戻りながら、コウは思った。
(ドラちゃん、やっぱりただの“トカゲ”じゃないな……)
魔物を倒したあと、しばらく沈黙が続く。
「……ドラちゃん、大丈夫?」
「きゅう……!」
魔物の毛をぺっと吐き出したドラちゃんが、誇らしげに胸を張る。
その瞬間——。
ピカッ!
コウとドラちゃんの体が一瞬だけ、ふわっと淡い光に包まれた。
「えっ、なに!? なにいまの!?」
「……きゅ?」
頭の中に、不思議な音が響く。
《レベルが1から2に上がりました》
《全体的にちょっと強くなりました》
《スキル:果実センサー Lv1 が使えるようになりました》
「え、なにこれ!? レベルアップって……冒険者がなるやつ!!?」
「きゅう~〜」
コウはぽかんと口を開け、ドラちゃんは首をかしげる。
「果実センサーって……もしかして、果物が見つけやすくなるとか!?」
「きゅいっ!」
木の実を探して迷い込んだ森の奥で、ふたりはちょっぴり強くなった。
そんな小さな冒険の、はじまりだった。
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