賽の河原
賽の河原には今日も、意味もなく石の塔が築かれては、崩されて、築かれ続けては、崩され続けていた。
三途の川のほとりにて。
距離を空けて等間隔に並ぶ、白装束に三角巾をかぶせられた罪人たち。
その後ろで順路を巡回する、棍棒を持った鬼たち。
賽の河原の石積み刑が適応されるのは、地獄の中でも比較的罪の軽いものたちである。しかし地獄は地獄だ。多くの罪人は光のない目で、まるで糸で操られているかのように生気なく、石の礫を掴んでは、一つ一つ、と積み上げている。手を止めてしまえば、鬼に棍棒で殴られるからである。
ある罪人が、十三個も石を積み上げた。
形が不ぞろいな石ばかりの賽の河原で、凄い事である。
そしてすぐ、後ろを通った鬼に目を付けられ、歩み寄られ、躊躇なく棍棒で石の塔を崩された。
全ては水泡に帰した。
こうやって積まなくとも罰せられ、積み上げても壊されるという、永い徒労に閉じ込めることがこの石積み刑の本質であった。
積み上げた罪人は「あぁ……」と力のない声を発した。彼はまだ地獄に来て日が浅かったのだろう。その声には、十三個も積み上げた感動が砕かれる、儚さが籠っていた。何年もここで勤める鬼にとっては見飽きた表情だ。何もなかったかのように鬼は巡回順路に戻っていった。
賽の河原には昼も夜もない。
いつもどんよりとした曇り空の下、汚くも綺麗でもない三途の川がこんこんと流れているのを聞くばかりである。賽の河原の後ろの方には、彼岸という言葉らしく彼岸花の群れが咲き誇っていて、それはそれは見事であるのだけれども、罪人は振り返ることも許されない。
ついでに言えば、気が狂って三途の川に飛び込もうとしても、すぐに捕まえられ、追加の罰として、『一年三途の川に溺れ続ける刑』が執行されるから、誰もやらない。
勿論、他の罪人としゃべってもダメ。立ち上がってもダメ。
独り言くらいは許されるが、五月蠅過ぎたら鬼の一存で殴られる。
石積み刑の平均刑期は数十年だった。
健全でいられず、狂うこともできない。罪人たちは精神をすり減らし続けるしかないのだ。
虚無と静寂が、賽の河原を支配していた。
他の地獄に落ちたものからは羨ましいなんて言われる石積み刑であるけれど、やっぱり蓋を開けてみたら、地獄らしさがしっかりあるのだ。
さて、そんな地獄でも、変な人間がいるにはいるのだった。
**
ある鬼がいつも通り順路を巡回していた。
その鬼は地獄の中ではベテランな方だったが、賽の河原で勤めた歴はまだ浅かった。
その鬼は人事異動でここにやってきた。彼が前に勤めていたのは、針地獄や釜茹で地獄と、地獄の中でも一流地獄と言われるようなところであった。
そんな彼が賽の河原へ異動を受けたとなれば、一見降格処分にもみえるものだが、事実は真逆だった。
賽の河原地獄はその特性上、鬼側も精神を病むことが多い。単調な仕事過ぎてメリハリがないし、生気を失っていく罪人のどんよりした感じに、あてられるからでもあった。そのせいで退職願いが出るのは珍しくなく、慢性的に人不足なのであった。
賽の河原は罪の重さだけ見ると軽い者が落ちる地獄であるが、誰もが知るような看板地獄でもある。
三途の川を渡る死者たちは、遠くで行われる石積み刑を見て、『あぁ、地獄に来たのだなぁ』と思うくらいには、知名度がある。
そんな地獄の運営に緩みが出れば、地獄全体の威信にかかわる。
だから、担当する鬼もできればやり手を揃えたいのだ。他の地獄からの異動も、致し方ない。彼もそうやって選ばれたうちの一人である。
……とはいうが、勤める当人の本心となると、話は変わる。
彼も、ここにきてもう数か月、内心では張り合いの無さに辟易していた。
ふわ、と出そうになったあくびを、いかんいかんと喉から出る前に噛み殺した。ベテランの鬼として、外面にはおくびにも出さず、今日も真一文字に結んだ口から上向きの牙を覗かせて、棍棒を肩に担ぎ、のっしのっしと順路を歩いている。そうやって罪人たちの恐怖の象徴であり続けようと頑張っているわけだ。
しかし、胸裏には針地獄や釜茹で地獄を懐かしむ気持ちがあった。
罪人たちの悲鳴に囲まれながら、逃げ出したり、何か良からぬことを考えたりしていないか、目を光らせる日々──そう遠くない想い出が、輝いて見えた。
とはいえ、彼は優秀なので私情と仕事に折り合いはつけている。
巡回しながら目の端ではちゃんと、罪人たちが積み上げている石の塔を確認していた。
確認するのは、積み上げている石の数である。
三、五、二、六、七、“九”。
──ふうむ。
彼は高く積み上がった、その九個の石に目を付けた。
──あの罪人の石は、先ほど十個くらいで倒したことだし、今度は九個で打ち崩すべきか──と考えたのだ。
さっきまでの懐かしむ気持ちもどこへやら、ずかずかと罪人の方へ歩み寄って、彼は石の塔を棍棒で小突いた。ばらばらと崩れる石の塔。今度の罪人はここに居て長かったのか、別段深いリアクションは見せなかった。元から光のない目から、さらに光が消えることは無い。
こんな風に、いつ石の塔を崩すかは全て鬼たちの手に委ねられていた。
概ね八個前後で塔は壊されるのであるが、たまに三個や、あるいは十一個で壊したりして、罪人たちに『ペースは把握させないぞ』と知らしめるのであった。石を積むことしかできない上に、何も予想ができないからこそ、罪人の心も折れるというものだった。
しかし、中には折れずに意味のないことをやり続ける人間もいた。
鬼は順路に戻ってしばらく歩くと、『げっ』という顔をした。長い長い賽の河原は往復するだけでも非常に時間が掛かり、その間に通り過ぎる無数の罪人の顔など、覚えられるはずもなかったけれど、その男の顔だけは覚えてしまった。
その男は今日も、平べったい石を、“縦に”積み上げようとしていた。
丁度、コインを机の上で縦に積み上げるみたいに。
鬼は足を止めた。驚いたからである。
遠巻きからでも見ればわかった。その男は既に三つの扁平な石を、縦に積んでいた。今まさに、四つ目を積もうとして──なんと、積み上げたではないか。
鬼ははぁ、とため息を一つついて、ずかずかと歩み寄った。
男が振り返る。
男は驚くでもなく、怖がるでもなく、無表情であった。額には汗が浮かんでいた。それだけ集中していた証拠だろう。
こいつだけは、ずっとそうだった。
まだここにきて日が浅いというが、それでももう一年、石を縦に積み上げ続けているという。
他の鬼たちにも気味悪がられるほど、この男は石の塔を崩しても、崩しても、縦に積み上げ続ける奇妙な男であった。
創意工夫はこの石積み刑で認められない行為だ。創作意欲に心の拠り所を見出させてはならない。石は一列に積み上げることがルール。ただ、この男は形式上で見れば、ちゃんと一列に積み上げているからタチが悪い。目ざとく適宜、壊すしかない。
ただし鬼は、男に咎める声も掛けない。もしそれが男の狙いであったら、本末転倒だからだ。現世の刑務所でも、刺激に飢えた罪人が奇行に及んで注目を集めようとすることなど、よくある。
鬼はじっと自分を眺めてくる男から視線を外し、棍棒を振り上げた。
鬼らしい剛腕っぷりで棍棒を振り下ろし、石の塔をバコンと砕いた。崩すのではなく、砕き壊した。
いくつかの破片が飛び散って、男の白装束へ当たる。男も、鬼も、何も言わなかった。どちらも、喜怒も、哀楽も、どんな感情の揺らぎも表情にうつさなかった。砕けた石の残骸がその場に落ちる。なおも男は真剣な眼のまま、棍棒が振り下ろされた一点を見つめていた。
鬼は無言のまま、砕けた石をわしづかみにし、男から手の届かない、川辺の方へ投げ捨てた。そして川辺へまた歩いて行って、別の真新しい石をひとつかみ持ってきて、男の前に捨てた。
砕けた、尖りのある石を使って男が何かを企んでいてもまずい。
鬼は賽の河原に勤めるものとして、正しい仕事をした。やはり男には一言もかけず、順路へ戻った。
去り際にすぐ、石をじゃらりと掴む音が聞こえた。振り返れば、間髪入れず男はまた扁平な石を掴み、縦に積み上げようとしていた。
男の気味悪い愚直さに、鬼は辟易した。
それでも、鬼としてどのような感情も露わにしてはいけなかった。
一度は縦に積む行為を、石積み刑の禁止行為にしてはどうかと上役に持ちかけてみたが、『全ての石の縦横比を規定するのか?』と正論極まりない意見を返されたため、諦めた。ルールの側から打つ手はなかった。
結局鬼は、その男に対してとにかく無関心であることに努めた。同僚に聞いても、皆同じような結論に至るようだった。
そんな日々が三年も続いた。
それくらい経つと、鬼は単調な仕事にも慣れてきた。恐れていた精神状態の悪化も問題なかった。最近は勤務者たちの精神的負担の緩和のため、給料が上がったり、有休日数が増えたり、地獄観光旅行券が配られたりと、福利厚生が厚くなっていたからだ。鬼の心にはまだバリバリやっていた四年前の記憶が残っていたけれど、これはこれで勤務外で充実した時間が取りやすい事であるし、働き甲斐もあるなと思い始めていた。
上向きな日々の中で唯一、心に引っかかることがあるとすれば、あの男だった。
男は今なおずっと、石を縦に積み上げ続けていた。三年もたゆまず積み上げては崩され続けたのだから、技量も相応に上がっていた。最近では縦に七つも石を積み上げていた。長い賽の河原の歴史でも、そこまで積み上げられたものはおらず、ある気の抜けた同僚などは「おぉ」と感嘆の声を男の前で漏らしてしまい、それを丁度通りすがった別の同僚に見咎められ、処分を受けることがあった。
また、あたりには砕かれた石だらけになるから、何度か鬼を増員して男の周辺の石を大幅に入れ替えたこともあった。男が割れた石を使って何かをしようとしているんじゃないかと言う懸念が、やはり怖いのだ。
男の身柄を他の地獄にうつすべきではと言う話が出たことも一度や二度じゃなかったが、それは賽の河原で長年積み上げられてきた『罪人を無為な行為に閉じ込める』という歴史を揺るがせることであるから、上役たちは頷かなかった。男は奇行を繰り返すが、それは石積み刑のルールの範疇に収まるから、鬼たちの側から規則を変えることはつまり、男の奇行が無駄じゃないと認めることになる。罪人に“してやられた”という事態を、賽の河原のプライドが許さない。この地獄の終わりは、罪人が自ら規則を犯しより酷い地獄に行くか、刑期を満了するかでなければならない。
男に対して、何もできない。
できないから、鬼は日々、嫌な予感を募らせていた。
ある日のことであった。
熟練だった同僚の退職直後に、他の地獄での脱走騒ぎや、新米たちの勉強会が重なって、普段より監視役の数が少ない日が生まれた。
ただし、歩く感覚を調整すれば問題ないくらいの欠員数であったから、通常通りに仕事をすればいいと、鬼は前日の同僚から引継ぎを受けた。
鬼は不穏を感じたけれど、賽の河原はいつもと変わらずどんよりとした曇り空で、ぬるい風は柔く、三途の川は静かにこんこんと流れ続けているだけだった。周りの同僚も平常通り、退屈そうだ。下手に怖がる気分にもなれなかった。
いつものように仕事をはじめ、いつものように順路を歩く。
鬼は、無性に足早に歩きたくなった。男の居場所に近づいてきたからである。しかし、それもまた賽の河原の規則に反する。自らの感情を優先させて、行動を変えてはならない。この地獄では、変わらない時間と日々は、変えられない時間と日々でなければならなかったから。
そうして、鬼は内心の不安を隠し、高まる胸騒ぎを堪えたまま、件の男がいる場所へと近づいた。
男が積み上げている石が見えてきた。
鬼はごくりと唾を呑んだ。
”ソレ”を見たなら、鬼はもう走って、石を壊しに行ってもよかった。
しかし、何故か走り出せなかった。
むしろ鬼は、ゆっくりと歩いてしまった。
そして、真後ろで鬼は脚を止めた。
圧巻であった。
男の前には、“空へ伸ばされた手”の彫像があった。
全部石だけで積み上げられていた。
彫像の大きさは、正座した男の、胸の高さまであった。
土台の手首から、指の付け根を通り、指先に至るまで、これ以外ないと思われる組合せで、静謐に積み上げられた石が、まるで雲の上に手を伸ばそうかとするような、一瞬を切り取っていた。
男は、一切の微動も許されないかのような、両手を中空で止めた状態で、一心に手の彫像を見つめていた。
鬼もまた、微動だにすることができなかった。自分の一歩が、息遣い一つが、石の手を崩すかもしれないと思ったからだ。
鬼は、ただ手を見つめた。
恥ずべきことであると仕方がなかった。
その凝視は、監視でなく鑑賞であった。
伸ばされた手の指の先端は、細い石を縦に積んで表現されたものだ。
では関節、指の付け根、手の甲━━生きた手を表現する微妙な曲線は何で構成されていたかと言えば、細かい石の破片を、絶妙に大きな石の間に噛ませたことによるものだった。
それらが、この鬼含め、いままで数々の同僚たちが砕いてきた破片の一部であることは、疑うべくもなかった。周囲の石を洗いざらいとっかえようと、破片の全てを拾うことは出来なかったのだろう。石の下に隠れた、細かな破片など、どうして気をつけよう。
男がこの像を作るために必要な破片を見つけ、自分の周囲に集め、拾われるなと祈り続けていたのが、この三年だったということだろう。
ただ━━“揃う瞬間”、それひとつに男が一心を賭してきたということだろう。
監視役が去ってから、また別の監視役が来るまでの時間など、ものの数分━━。
それが僅かにでも伸びるくらい、監視役が減る一日と──、
それでも僅かな時間の中で、像を完成させるために必要な技量と──、
像を形作るために十分な石が、男の周囲に揃っていること。
その全てが、今日揃ったのだ。
目の前で、揃っていた。
鬼は、静かに息を吐いた。ある決心をしたのだ。
「名を、聞かせてくれないか」
それは空気も揺らさないような、小さな声であった。
男は振り返りもせず、まだ目も離さず、ただ僅かにずつ前傾していた姿勢をもとへ戻しながら、応えた。
「“悔い”と名付けます」
男は作品の名前を応えた。
鬼はもう、男の名前を聞けなくなった。
充分であった。
鬼は、終いの時を静かに待った。
男がゆっくりと、姿勢を整え、手を膝の上に戻すのを待ったのである。
それから男が一つ、ようやく息を吐いたのを聞いて、鬼は覚悟を決めた。
細心の足運びで、音なく石の上を歩く。
像の真横へ立つ。
棍棒を振り上げる。
鬼は地獄で勤めた日々のこれまでで、一番強く棍棒を握り締めた。
一息に振り下ろす。
破砕の音が響く。
いくつもの礫を、男も鬼も浴びた。
低く舞った砂塵が消えた後、曇天の向こうへ伸ばされていた石積みの手は、もうどこにもなかった。
ようやく男が、鬼へと目を合わせた。
この地獄で見たこともない、晴と雨が混じるような微笑みを浮かべていた。
「ありがとう」
堰を切らしたように、彼の額から一滴の汗が落ちた。
彼は汗に至るまで、全身を持って、この静謐さを守っていたということだろう。
鬼は、彼の表情を目に焼き付けた。
一度目を閉じ、何も語らず、また順路に戻っていった。
その場を去った後、鬼が一瞥、彼の方を振り返れば、また石を掴み、積み上げ始めていた。
しかしもう、縦に石を積んではいなかった。
ただ真っすぐに、扁平な石を扁平なままに、積み上げ始めていた。
彼はまた罪を償い始めたのだ。
**
あの後、鬼は自らの規則違反を上役へ報告した。
他の同僚の目がなかった以上、確たる証拠はなかったが、遠巻きとはいえ隣であった罪人たちの証言から、鬼が立ち止ったことは事実であると認められ、鬼は処分を受けた。
賽の河原を去ることになった。
元の職場の釜茹で地獄にて、元の立場より一つほど役割を下げた、降格処分を受けたのだ。処分としては軽いものであり、実質の出戻り人事であった。仕事ぶりはずっと評価されていたから、上役も悪いようには扱わなかった。
鬼は不満一つなく、全てを受け入れた。
賽の河原を去ったことで、後から鬼は、あの男の生前を聞けた。職業柄、監視役たちの同情も憎悪も誘わないよう、罪人たちの素性はほとんど明かされないという事情があったのだ。
あの男は、芸術家であった。
彫刻の畑かと思いきや、絵画の人間だったそうである。
芸術に没頭するがあまり恋人の精神を病ませ、自殺させた罪、だそうである。
そして刑の満期が、もうすぐであることもを知った。
生前は、雲の陰影に秀でた画を描いていたのだという。
━━それから、しばらくして。
鬼は、出戻った元の職場で、以前とあまり変わらず働いていた。
地獄はどこも人手不足だ。汚職か怠慢をしたならまだしも、一度の規則違反を自己申告して戻ってきた鬼の姿は、元同僚たちの目から見ても、恰好はついていたらしい。上司も後輩もすぐ、以前と同様な仕事を任せ、鬼も難なくそれに答えた。
依然と働きぶりが変わるようなこともなかった。
あいつは罪人の一人に絆されたのだ、という真実の噂も出回っていたが、灼熱地獄の重罪人たちへの態度は、以前と同様苛烈極まり、気迫充分であった。
信頼は着実に取り戻しており、近いうち、元の役職にあがり直す目途も上役たちの間で通っていた。
概ね、何も変わらなかった。
あの手を見る、前でも後でも。
鬼自身も、本心から、罪人を分け隔てなく慈しむような心が芽生えていないことを自覚していた。
罪人は、罪人だ。
あの男も、罪人だ。
犯した罪に罰があることは変わらず、刑に殉じさせることは当然である。心の軸は揺らいでいなかった。彼を無闇に憐れむ心も、本当に生まれてはいなかっ。
ただひとつだけ、変わったことがあった。
休日、彼の趣味が一つ増えたのだ。
それは絵であった。
彼はある日、簡単な画材を片手に、三途の川の上流へ向かった。
石積み刑の区画よりさらに向こうへ歩いていくと、彼岸花がのびのびと咲いた一画がある。賽の河原勤めのときに、何気なく知った場所である。
彼はそこで丸椅子を開き、絵を描き始めた。主題は川であった。
彼は誰かに話したこともないが、賽の河原で勤めた日々の中でいつの間にか、弛まず流れる三途の川の姿に、退屈と、恐ろしさと、悠久の美を感じ始めていた。
さて、それを描こうと思い立ち、いざこの場へとやってきて、では描こう、と紙に筆を置いたとき、ふと、気づいたことがあった。
川の水面のうねりを筆で捉えるのと同じくらい、川辺の石の質感を、捉える必要があると直感した。
川が動であれば、石は静である。
触れ、掴み、積み、その重心を探るかのように、石の静けさを理解せねばならない気がした。
素人では至れない、玄人のような洞察であった。
まるでいつか、誰かに教わったことを思い出したかのようであった。
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