第3話 旅は道連れ ③
暗澹とした森の中を一筋の光が疾走する。
木々の間を縫うように駆け抜ける様は、側から見れば蛍の光にも見えるかもしれないがその正体は二人組の男女であった。
というよりもミサとロークであった。
二人の表情は断じて気楽そうな様子では無く、何かから必死に逃げている様だった。
二人の周りを明るく照らす『
そんな必死な二人を追って、闇を切り裂き、森を邁進する巨大な影。
憤怒、という感情を一身に纏った
「こ、これはちょっと、怒らせすぎたっすかね…っ!」
「いや、むしろ上々と言ったところだろう!」
ちらりと、足元に気を配りながらも背後に迫る脅威に目を向ける。
暗闇に溶け込むような色をした
ミサは視線を前方に戻し、シノアから伝えられた作戦を思い出す。
「このまま引き付ける!」
「了解っす!」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
時は少し遡り。
火に躊躇っている
意外だったことは不服そうにせず、しっかりと内容を聞いていたリアスの姿だった。
今ある手札で最大限できることを纏め、最後にロークとミサを見据える。
「この作戦は主に二人に危険がのしかかってしまう。辞めとくなら今だぞ」
二人は初めから答えが決まっていたかの様に、踵を揃え柔和な笑みを浮かべる。
「この身は元より王とその民を守る為にある。その任しかと任されよう」
白銀の騎士は炎の煌めきを受け、その覚悟の現れのように
二人は騎士の誇りに賭けてきっと成し遂げてくれるだろう。
両者を見て頷き、この作戦の要となる本人に視線を向ける。
「…なんかさっきからずっとニヤニヤしてるな」
訝しげな視線を向けられたリアスはそんな事もお構い無しに、これからの事に心躍らせていた。
「ムフフ、この作戦ミャーが一番目立てるのにゃ」
「あっそう…」
やはりこいつはこいつだったと溜め息を吐きつつも、実力があるのは間違いないためそのままにしておく。
そうこうしている間に
相手の動向を確認すると、作戦通りに各々が動き出す。
まず先に動き出したのは、国家においても盾となり剣となる騎士団の二人だった。
ミサは
行使できる魔術の中でも
シノアの情報から得た有効であると思われたその攻撃は、しかし、漆黒の結晶鱗に傷をつけることは叶わない。それでも、熱を帯びた攻撃を危険と判断したのか
すると、鼻からそれが狙いであったかの様に追撃を仕掛けること無く、バックステップの要領で跳躍するように後退し距離を取る。
「ローク!」
阿吽の呼吸でミサの合図があると同時に、
何度見てもその巨体と身につけた装備からは想像できない速さで動くロークは、背に担いでいた戦斧を片手で掴み上げる。
血管が脈を打ち、筋肉が隆起した上腕は何十キロとあろう戦斧を軽々と振り翳すと、今度はそれを地面すれすれを弧を描く様にして振り上げる。
「どっっせい!!」
---パッァアン!!
強靭な膂力を持って放たれた一閃は
のけ反る様な形をしてそのまま後ろに倒れ込む
「下手したらあいつだけで倒せるんじゃないか…?」
遠くから観察していたが、その様子を見て思わず考えてしまう。
「やったすか!?」
「…いや、まだだ!」
しばしの静寂の後、ゆっくりと、しかし確固たる怒りを携えて起き上がる。
自らを強者と驕っていた
よく見ればロークが与えた攻撃はほんの僅かに、だがしっかりと
それ自体は小さな傷ではあるが、自らの誇りにも傷がついたと怒りに燃え上がる。
目の前にいる獲物を殲滅せんと感情のままに咆哮する。
『Gurrrraaaaa---!!!』
内臓が揺れ、思わず耳を塞いでしまう程の咆哮は、ミサ達からすれば作戦が上手くいっている証拠であった。
「『
「ちょ、置いて行かないでくださいっす!」
急いで魔術を行使し迷う事なく深い森の中に飛び込むミサと、戦斧を担ぎなおして慌てて後に続くローク。
暗闇に溶け込むとすぐに姿は見えなくなり、やがて大木の倒れる音だけが森に響き渡る。
その様子を見送った後、先の戦闘で十分に
「何をしてるのにゃ…?」
「まぁ、見とけって」
訝しげな表情をしているリアスを他所に、淡く輝きを帯びている二振りから溜められた衝撃を解き放つ。
眩い閃光と共に迸る轟音は剣先の周囲を抉る形で吹き飛ばし、半径1m程のクレーターを作り出す。
「…思うようには行かないか」
自らの想像していたほどにはならなかった結果から不甲斐なさを感じていると、砂埃を煙たがりながらリアスが近づいてくる。
「けほ、けほっ、結局何がしたかったんだにゃ…」
「落とし穴を作りたかったんだよ」
作戦の内の一つにある
それは俺がやると自信満々に言ったのだが、やはり思い付きで試すものではないな。
「そんなの魔術を使えばいいのに」
さも当然のことのように首を傾げこちらを仰ぐリアスに、剣を鞘に収めつつ振り向く。
「俺は魔術が行使できないんだよ、一つたりともな」
「そ、そんな人間がいるのにゃ!?」
あり得ないものを見るかのような驚愕に満ちた表情をするリアス。
今まで何度その反応を見てきたことか。
最早慣れたものだ。
むしろその反応を楽しみにしている俺がいるっ。
「ま、この後のためにもお前に負担をかけさせたくなかったんだが、上手くいかないもんだな」
どうして俺は魔術が行使できないのか、
最初の頃は魔術を行使することにそれなりに憧れがあったが、今となってはあったら便利だな程度にしか思っていない。
「やれやれ、ミャーを誰だと思っているのにゃ」
溜め息を吐きつつ、呆れたように首を振るリアス。
少し仰々しい態度に少しイラッとする。
なぜこいつの一挙手一投足はこうも他人をイラつかせるのだろうか。
パーティーを組みたいやつがいないという理由が、今本当の意味で分かった気がする。
「魔術ひとつ行使したところで、疲弊するミャーじゃないのにゃ」
こちらに向けてウィンクをすると、自らの相棒である長杖を構え俺の開けたクレーターの方へと歩み出す。
向けられた
すると、大気中の魔素が風の流れと共にリアスの元へと集っていく。
「『
魔素はリアスの身体を通して魔力として練られると、地響きを伴いながら開けたクレーターを遥かに越える巨大な穴を創り出す。
「どうにゃ、三割程度の力でもこのレベルにゃ」
むふん、と鼻息を鳴らすリアスが汗一つかいていない事から、それが真実であると分かる。
三割でこれだったら、本気でやったらどうなるんだ…?
冷や汗が頬を伝うのを感じ、魔術の素養に関しては本物であることを再度認識する。
「本当にすげぇな…」
「そうなのにゃ、ミャーは本当にすごい魔術師なのにゃ」
素直に褒められたことによってより鼻息を荒くする。
あとは落とし穴だとバレないように細工をして、頑張ってくれてる二人に合図を出すだけ。
上手くことが進めば一発で方が付くはず。
「も、もう限界っすー!!」
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