第5話 夕暮れ

消毒薬の匂いが漂っていた。

北の外れに位置する理科教室。

その脇の階段下に彼女が待っていた。


小さな身体を窮屈そうにして。

俯く顔は忘れようも無くて。


大好きで。

大好きな。

初恋の人だった。


「山本さん・・・?」

俺は十五歳の少年に戻って問いかけていた。


何も言わずに顔を上げた瞳が潤んで光っている。

大きな目、小さな顔からこぼれそうだ。


熱いものが込み上げる。

校舎の灰色の風景の中で少女だけが色づいていた。

夕暮れのオレンジ色が長い影を落としている。


十年前と同じように。

少年の俺は。


おずおずと。

告白したのでした。

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