第5話「現実は非情って話」
現実は非情である。
多くの人間はそのことを理解していることだろう。しかしながら、俺は今この瞬間ほどこの言葉を噛みしめたことは無いと断言できるだろう。
なぜなら―――
「デイ君。席近くだね♡」
これである。
試験後、俺たちは合格通知を受け取り無事に学園に通うこととなった。ここまではよかった。だが、そこで幸運を使い果たしたらしく、配られたクラス分けを見た瞬間、俺は目を疑った。
一年A組五番、デイモン。
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一年A組十八番、リリス。
何で同じクラスなんだよ振り分け適当か?確か聞いた話だとランダムに決まってるんだったか?となると、あれか?俺は運悪く、こいつと同じクラスに振り分けられて、一年間半日の間こいつと喋ることになるわけだ‥‥‥
退学手続きってどうやったらできます?
え、無理?あっ、そう。
きっつ。当然のように俺の隣の席に座ってニコニコしているリリスの相手もそうだが、教室内の他の生徒たちからの視線が痛い特に女子からの視線。
「あれ付き合ってんの?」
「え、あんな美人が?」
「何したらそうなるの?」
うるせぇ!そもそも付き合ってねぇし、俺だってこいつと釣り合うとは思ってねぇよ!
心の中でそう突っ込んでいると、教室の扉が開いた。
「静粛に、全員着席。これより担任の紹介をする」
現れたのは、試験のときの試験官だった口ヒゲの中年男性だった。リリスの件といい、偶然と縁と言う奴はサプライズが好きらしい。
「貴様ら一年A組の担任を務める、バース・バルキンだ。魔導騎士団所属だが、教導任務としてここにいる。馴れ合いは好まん、わかったな」
声と態度は厳しいが、公平そうな印象はある。真面目そうでいいじゃないか。なら、ここにいる悪魔どうにかしてくれ。
そう思っていた矢先、
「なぁ、お前‥‥」
俺の背後の席から、妙に馴れ馴れしい声が飛んできた。
振り返ると、髪をオールバックにして、ちょっと得意げな顔をした少年がいた。制服は着崩し気味、身なりは清潔感あるがどこか庶民っぽい。
「お前さ……なんで彼女いんの?」
いや、いきなり話しかけてきて第一声がそれかよ。いいのか?お前今後もそう言うキャラになるぞ?読者から馬鹿にされるぞ?
「いや、彼女っていうか──」
「俺さあ、昨日からずっと考えてたんだよ。なんで俺はモテないのに、お前は彼女いるんだって」
いや、だからまず彼女じゃねえし。勝手に思い詰めんな。まだ十代なんだから焦ることないって。俺なんて三十路になっても友達一人しかいなかったもん。
「決闘だ」
「なんでだよ!?」
俺の言葉を聞いてか聞かずかわからないが、急に立ち上がり、高らかに宣言してきた。お前ほんと何言ってんの?喧嘩っ早いリザードマンだってもうちょい段階踏むぞ?
残念なことに王立魔道学園では、決闘は教師の許可があれば成立する。実際、先生も「現実を知るのも勉強のうち」とか言って、さっくり許可を出した。おい、止めろよ教師。言いたいことはわからんでもないがその役目を俺に押し付けんな俺も現実を勉強する側だろうが。なに冷静に審判やってんだ!?
こうして、渋々、俺はその少年と決闘することになった。
こういうのって大抵ヒロインとだよね?いや、俺リリスと喧嘩したくねぇけどな、学園含めた周囲が死ぬから。
「双方、準備はよろしいかね?」
学園の中庭。そこで俺と先ほどの少年、ラン・セラドと向かい合っていた。俺たち二人の周りには野次馬が集まっていた。最前列にはクラスのみんながいる。当然、リリスもいた。ちょっと不機嫌だ。あとで構ってやろう。
「問題ないです」
「えぇ、すぐにこのモテ男をぶちのめしてやる!」
そういうとお互いに剣を抜き、構える。間に立っていたバルキン先生は二人を見合った後、右手を上げる。
「では、始め!」
「行くぞ!俺の雷速斬ッ!」
火ぶたが切られるや否や、彼は雷の魔力を纏い、一直線に突っ込んでくる。確かに速度は目を見張るものがあるなと思っていると‥‥
――ガッ
「グフッ」
いきなり、小石につまずいてうつ伏せにこけた。鼻から土を吸い込んで苦しそうにしている。
「‥‥‥」
何も言えねぇ、ダサすぎて何も言えねぇ。
「ま、まだだ!俺は……!俺は……!」
ふらつきながら立ち上がったランが、今度は雷の魔力を刀身に纏わせ、横一閃に斬りかかってきた。
俺は一歩引いてしゃがみ、余裕でかわす。その拍子に足元の砂をすくい、軽く構える。
(単純だな……もっとフェイントとかあるだろ)
振り返ったランに向かって、俺は容赦なく砂を目に叩き込んだ。
「目がぁ‥‥!目がぁぁぁ!」
目を両手で抑えて苦しむラン。その姿は、情けなさの新記録だった。
「まだだ!まだ俺のは魔力探知‥‥で‥‥」
そう言った瞬間、ランは言葉を詰まらせる。あらかじめ俺が魔力の気配を消していたからだ。
「くっ、ずるいぞデイモン!だが、今のお前は魔法も魔術も――ひでぶっ‼」
言葉を遮り、俺は相手の勝ち誇ったような顔に右ストレートを決める。殴り合いの心得なら前世の酒場で散々鍛えたものだ。
鼻にもろに喰らったラン・セラドは鼻血を垂らしながら一撃で地面に倒れてしまった。よく、決闘受けようと思ったな。
「……そもそも彼女ほしいなら決闘じゃなくて別の努力しろよ」
誰にでも聞こえるように呟いたその言葉に、地面に倒れたままのランが絞り出すように叫んだ。
「わかってんだよぉぉぉ!」
泣き出すラン。そんな泣く?一世一代の勝負に負けたくらい悔しがってんじゃん。いや、勝負したけどさ。
その様子を見ていたクラスメイトたちは、珍しいもの見れたといった顔で去っていった。
「アダムたんに舐めた口きいてるから閉めてやろうかと思ったけど、戦ってるところ見れたから、特別に許してあげよ」
ただ一人、リリスはぽつりと呟いた。どうやら俺が手を回す必要はなかったらしい。よかったよかった。あいつは運が良いらしい。
だが、この時俺は知るよしもなかった。リリスの危うさが牙をむく事件が起こることを―――
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