第10話

 ルクスは、親切にしてくれた初老の男オムナに最後の感謝として、その遺体を丁重に埋葬した。村だった場所の中央の開けたところにに穴を掘り墓を立てた。墓標に向かい、感謝を心の中で唱えた後、周囲にある家屋に入り、使えそうなものがないか漁った。

 

 保存がききそうな食糧、刃物や水など。服を探したが自分の体に合うものがなく諦めた。オムナの話から自分が着ている服、《果て》唯一の部族だったラキアロンの民族衣装は目立つとの話だったので着替えをしたかったのだが仕方がない。


 ルクスは一通り家屋を漁り終わり、その場を後にした。オムナから南の深い森を越えてしばらく進めば、また違う村に出るようだと話を聞いた。さらにその先に行けば多くの人が住む街があるらしく、多くの人が住み、行き交っているとようだと聞いた。オムナからは得られなかった自身の目的の手掛かりをその街で得ることができるかもしれないと考え、ルクスはその街を目指す事に決めていた。


 陰鬱な曇り空の下、強い風に吹かれて舞う雪にあたりながら南にある森へと歩を進めた。森には道と呼べるものはなく、ルクスはただひたすら木々を避け積もった雪をかき分け、南の方向へ直進していた。


 何かを感じ歩みを止め、雪をかぶった木が数本たたずむ左側に視線をやった。突然木と木の間の雪が爆ぜ、ルクスに向かって何かが飛びかかってきた。イルサティと呼ばれる猫のような魔物が鋭い牙をむき出し、鋭い爪でルクスを襲う。


 ルクスは飛びかかってきた魔物を体の向きを変えるだけで躱した。躱された魔物は再びすぐにルクスに飛びかかったが、いつのまにかルクスが手にしていたおそらく農具であろう鎌のような刃物を鋭く振るい、魔物の首が落ちた。


 ルクスは構えを解かず、そして四方八方から先ほどと同種の魔物イルサティが複数飛びかかってきた。ルクスは落ち着いた様子で飛びかかってくる魔物を躱しては首を正確に切り落とす。大柄な体からは想像に難い素早い動きで魔物たちに対処していく。それを危なげなく数度繰り返せば、すぐに辺りの雪が飛び散った血で染まり、魔物は全滅した。


 飛びかかってくる魔物はいなくなったが、ルクスは鎌のようなものを手に持ったままゆっくりと歩き出した。血のにおいは漂い、薄く広く森に広がり呼び寄せる。血の匂いに誘われ森の奥から多くの魔物がルクスめがけて襲い掛かかった。


 ルクスは多くの魔物に囲まれるが顔色一つ変えずにただ黙々と突っ込んでくる魔物を順番に捌いていく。ルクスを中心に魔物の積みあがる死体で死屍累々となり魔物達の熱を持った大量の飛び散った血であたりの雪が解け土色の地面が所々見えていた。


 知性を持たずただ存在意義のままに獲物を襲う魔物たちも次第にルクスへ飛びかかることを躊躇しだす個体が現れた。おそらく躊躇する魔物が抱いたものはルクスを畏怖する感情のようなものだと思われるが、躊躇した数体の魔物からすぐに周りの魔物にその感情のようなものは伝播してゆき、気が付けば取り囲む多くの魔物たち全てが一定の距離からルクスに近づけなくなっていた。


 「......終わりか。つまらない」


 ルクスはゆっくりと息を吐き、力を込め「コキョク」とつぶやいた。ルクスの体を纏う何かが全身から足を伝い地面に瞬時に流れ込み、そしてルクスを囲む魔物たち全ての足元から天に向けて太く鋭い赤黒い血の混じった氷の槍が勢いよく生え、取り囲むすべての魔物たちを貫き串刺しにし、残らず死に絶えた。


 ルクスは、目の前の氷の槍に貫かれぶら下がる一体の魔物に手を添え、鎌で魔物の肉をはぎ取ろうと鎌の刃を魔物の体にあてたが、数体の魔物の肉と骨を打ったせいで鎌の刃は変形しボロボロになってそのほとんどが欠けており、魔物の硬く特殊な皮膚の上を刃が滑り、裂く事はおろか傷をつける事すら出来なかった。


 ルクスはため息をついた後、使い物にならなくなった鎌をその場に捨てた。自分を取り囲む氷の槍で出来た檻の南方面を、ぶら下がる魔物ごと蹴破って道を作り進んだ。


 南に進むにつれ、強く吹き付けていた風は次第に弱まり、あたりに積もる雪の量も減っているのが見てとれ、気温が上がっていくのを感じた。森は深く2日ほど歩き続けているが終わりは見えない。


 しかし、ルクスは自分の心に湧く静かな胸の高鳴りを感じた。《果て》と呼ぶ場所で銀色の世界しか見たことがなかった自分が、北の山の頂から見た《世界》の大地へと近づいている実感が、心がないと同族たちから敬遠されていた自分にも心はあるのだと改めて感じることができて嬉しかった。



 『貴方に心はあるわ。だってこんなに優しいのだもの。ただちょっぴり不愛想なだけよ』



 大切な人、そう言ってくれた彼女の笑顔を思い出した。初めて感じる優しい冷たさの風が頬を撫で、ルクスは微笑み、そして南へと歩を進めた。

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Rock The Bells~あの鐘をぶっ壊せ!~ ろうと @pos_99

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