第12話 ガーディアンサマー(6)
「シファ、あなたの方がお金かかってるわよね。でも、実際はこうしてただの力押しに負けてる。今更の古い技術に頼って、無理に分身なんかするからよ」
セレスは高笑いした。
「そうかもしれないわね」
その声にセレスはのけぞった。なんとさらにシファの3人目がセレスのすぐ隣に現れたのだ!
「でもおかげでよくわかったわ。あなたの建造のためのマネーロンダリングの仕組みも。なるほど、東南アジアにもう一つの本拠があるのね。ダークウェブに集ったブラックハッカー集団『ラゲルス』と『シャドウライツ』の結節点、セレスティアル・セカンド。よからぬ野望を持つならずもの国家のハッカー組織『992号室』と結託し、我が国を脅かそうとしている。2500円を1億人から集めなくてもならず者国家がかき集めた不正資金を洗浄すれば、たしかに2500億円は調達出来るわね。あなたの言ってることが嘘なのがまた一つバレた。社会をよくしたいと思ってる人も騙したけど、ほとんどはならず者国家。あなたはそういう知識不足だけど正義を望む人を騙す。ここでも卑劣極まりない。そしてその結果、私の劣化版としてのあなたが生まれた。いまの小型核融合システムなら確かに時空潮汐力装置でなくてもそっくりには動ける」
「あら、わかったの? でも手は出せないわよね。そのセレスティアル・セカンドは遠く離れてるし、そもそも別の国家だし」
くそ、ハッキングが即時に拒否られる! なんて強力なファイアーウォールなんだ! ココがそう悔しがる。
なにしろハッカー集団のオールスターチームだからな。それも国家の支援を受けてる。これじゃ埒があくわけがない。ココは絶望的な声だ。
だがシファは平然と返した。
「じゃあ、その本拠、ちょっと空爆する」
えええっ!!
おどろく僕を吊り下げたシファの目の前の空中でハッチが開く。
「ブライトストーム極超音速スタンドオフミサイル、目標設定終了」
セレスが目を見開いて驚いている。
「荒事はふつうは避ける。でもあなたたちはそれを知ってて、それを盾にする。テロリストのやり方ね。でもあなたたち、犯罪予知で犯罪ゼロ目指してたんじゃなかったの?」
セレスは反論しようとするが、言葉につまっている。
それにシファが続ける。
「あなたは知らなかったかもしれないけど、私の建造、12兆円かかってるの」
セレスはさらに言葉を失っている。
「本物にはお金がかかる。民主的な手続きにも。でも私の12兆円はその手続きを経た人々からの信頼の12兆円。あなたの詐欺と卑怯の2500億円とは比べることも出来ない」
直後に太い電信柱ほどのミサイルがそのハッチから飛び出し、急ターンして南に飛び去った。
「セレスティアル・セカンドへの着弾まで27分52秒」
「なんてことするの!!」
セレスはそう言うが、シファはとりあわない。
「セレス、あなたこそ投降したら? しないでしょうけど一応言っておくわ」
シファが言う。
「だって私、いま一番、こんな頑張った護衛対象者を侮辱したことに、すごく怒ってるもの」
その口調には感情が何も載っていない。だがそれが余計恐ろしさを演出していた。
でも同時にぼくはうれしかった。がんばった、って……。
「数々の的外れの侮辱を恥じて、自沈しなさい」
セレスはクチを横に引き結んだ。
「犯罪を生む勝手な自由なんてくだらないわ。私なら犯罪をゼロに出来た。あなたは間違ってる」
「でもその犯罪をあなたがこうしてやってるのは、いったい何の皮肉?」
シファは静かに言葉のカウンターを浴びせる。
するとセレスは突然高速度で逃げ出した。
「さっきまでの言葉はなんだったの」
シファが再び一つになる。あの分身はホログラフィ投影だったのか!
セレスは立体都市の通路やトンネルを飛んで逃げる。だがシファはそれにすこしも動揺することなく追撃する。建物の壁や柱、配管をかすめる。
「こんなすれすれ飛ばなくても!」
ぼくは恐怖で正直、漏らしそうになっていた。
「だって、私、当たらないもの」
シファは平然という。それに追われるセレスの必死の回避ぶりがよく見える。
「なぜ? 私、正しいはずだったのに……犯罪ゼロの世界を本当に作るはずだったのに……利用されてるの? そんな!」
セレスが自問自答しながら逃げる。
「気づくのが遅すぎたわね」
狂気じみた高速度の追撃の末、セレスはセレスティアルコアに戻って、振り返った。
「違う! まだ終わりじゃない!」
セレスの言葉にぼくは怪訝な顔をしてしまったが、その直後、驚愕に震えた。
なんとコアのある周りの物流施設と思っていたモノが動き出し、一つの宇宙船のようになっていくのだ。
「これが私の本当の切り札よ。これが世界中に仕掛けたボットネットと連携する可変戦艦セレスティ……」
そのセレスの言葉の途中でシファが突然爆煙を噴いた。直後にその宇宙船は大爆発を起こし、木っ端みじんになった。
ひいい、悪役の『口上』も許さないなんて!
シファさん、本当にめちゃくちゃ怒ってる!?
そしてシファは剣を取り出し、セレスにその切っ先を容赦なく突きつけた。
「切り札がなに? それより私、怒ってるんだけど」
その直後、警察エアバイク隊が殺到し、セレスを拘束した。
捕まってボロぞうきんのように刑事に連行されるセレスは、惨めを通り越して可哀想なほどだった。
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