第13話 ガーディアンサマー(7)

 そのあと、シファはぼくを吊り下げたまま、あの駅に戻った。

「ありがとう。あなたがあのとき銃手をやってくれたから、任せてこんな早く解決出来た。私、抜けてるところもあるけど、それも設計のうちなの。完璧につくってもそれは完璧になり得ない。それならどこか欠けてた方が、工学的には安全なの。欠けたところを補い合った方が完璧なモノ1つよりずっと強いし現実的。だから、弱者がいてくれないと、社会は本当の意味で強くなれないのよ。そしてあなたは大事な貢献をした。セレスにはそれが見えなかった。だからこの結果は必然だった」

 ぼくはうれしかった。ぼく、ここにいていいんだ。シファさんを、助けることができた……!

「フェイントモーションにも騙されなかったものね」

 シファは微笑んだ。あんなときでも、ぼくを見ててくれたんだ!

「シファさん……!」

 そのときぼくはようやく、背中のシファの胸だけでなく身体から、なにかとても甘く優しい匂いがしていることに気づいた。

「ぼく、シファさんのこと」

 シファはそうしているうちにぼくを駅に降ろし、着陸した。その青いブーツがアスファルトに触れ、それに荷重が乗ってシファは地面に立った。

 その姿は翼を持った可憐な姫騎士だし、同時に文句なしの勇猛で力強く頼もしい戦艦の姿だった。現実味は相変わらす無かったけど、これが現実だった。

「なあに?」

 シファが微笑んでくれた。ぼくはそれがすごくうれしかった。ずっとこんな感情をもつ日が来るなんて思ってなくて、うれしくてすごく言葉が出なかった。

「さて、鳴門に怒られるわね。いくら解決のためとはいえ、また無茶し過ぎちゃった」

「え、鳴門?」

「ああ。内閣調査庁調査官・鳴門。私の大学時代からのカレ。こういう作戦の立案に調査、後始末まで全部やってくれる」

 シファはふつうにそう言うけど、ぼくはその言葉にならない気持ちが一瞬で粉砕されるのを感じた。

 ……そうだよね。こんなステキなひとにそういうひとがいないなんてことないよね。

 それにしちゃ、あまりにも短い恋だったなあ。

 瞬殺にもほどがある……。

 だが、そう涙ぐむぼくを、シファは突然抱いた。

 !!!!

「いいんですか」

 ぼくはやっとその言葉を絞り出した。

「いいと思う。あなたの勇気は私、信頼して頼りにしてたし、助けられたし。鳴門もこれならわかってくれると思う」

 シファはそう言うと、ぼくのほっぺにキスをした。

「ありがとう。いろいろあとのことは警察の担当とあると思うけど、なにかあったらまた私を呼んで」

 シファはそう微笑んだ。


 ぼくのなかをいろんな感情が湧いて納めようがなかったが、ココに「ほら! しっかりしようよ!」と促されて、ぼくは言った。

「ありがとう」

 シファは、それにまた優しく微笑んだ。

「あなたも、わたしも、不完全だから生きてるし、生きる価値もあるの」

 そういう姿は、まさに有翼の勝利の女神そのものだった。


 まだ幼いぼくの、短い夏の冒険は、これで終わった。

〈了〉

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