第11話 ガーディアンサマー(5)

 見ると警備警戒ドローンが接近しているのが雲のように見えた。

「ヒロトくん、これ操作できる?」

 するとぼくの手元にコントローラーがある。それもゲーム用にそっくりだ。

「せっかくだから私の機銃のガンナーやって」

「ええっ」

「私が全部処理できるけど、あなた、暇でしょ?」

 そんなわけあるかー! こんなことに巻き込まれて、ただただ圧倒されているのに! でも眼の前にはガンクロス、照準が見える。

「撃っちゃいけないモノは私の持ってるAIが判定して止めてくれるから」

「これ、ほんとにぼくの暇つぶしなの?」

「今のところはね。でもこうした方がいい、って私の大脳辺縁系がささやくから」

 大脳辺縁系って本能を司る脳の部位だ、とココが補足する。

「シファさん、大脳があるの?」

「もちろん。外部脳と繋がってアシストを受けてるけど、人間の理解のために人間の脳を中核にしてる」

「シファさん、戦艦なの? ヒトなの?」

「正直、私も気にしたことない。いつもやることが多くてそれどころじゃないから。ほら、そう言ってるうちに左舷2時方向から高速接近するドローン群」

 ぼくは慌ててそれに照準を合わせてボタンを押す。するとレーザーと機銃弾が吹き出し、攻撃してくるドローンを次々ととらえ粉砕していく。まるでゲームだ。でもそうしているうちに、ぼくはだんだんシファがぼくを子供扱いしていることに気づいていって、悲しくなってきた。

 ぼく、ぜんぜん役に立ってない……。

「正面にセレス!」

 ぼくもセレスを撃つ。だがセレスはシールドを展開してそれを無効にする。

「あら、あなたはそんな坊やを守らなくてはならないのね。足手まとい抱えて大変そうね。そんな貢献度の低い平凡な幼さは社会にとっても負担でしかない。最適化が足りないのよ」

 セレスはそうあおる。

「なるほど、あなたはそういう考え方なのね。理解したわ。そして、最初の何から何まで間違っている。多様性は系の強靱さを作る大事な要素」

 そう言うとシファはそこまでセレスやそれに乗っ取られたドローンへの集中砲火を突然やめてしまった。

「うわ、シファさん、なにやってるんですか!」

 数を頼みに押してくるドローンとセレスに僕は必死になって照準を合わせ、撃った。幸い連射の効く武器なので対抗できるけど、でもなぜシファがそんな沈黙を選んだのか、僕には理解できなかった。それはセレスも同じようだった。

「あら、あなた、故障?」

 ええっ、シファさん故障したの!? まだ飛んでるけど攻撃能力失っちゃったの?! まずいよ!! こんなのまずいよ!!

 僕は必死に反撃する。別のボタンを押すと小型誘導弾や攻撃をかわすフレアの発射が出来ることに気づいた。まだ戦える。でも物量に負けそうだ!

「案外シファってなさけないわね。こんな力押しにあっさり負けるなんて」

 セレスが高笑いする。

「タカムスビもたいしたことないわね。切り札のシファがこの程度だからたかが知れる。効率の面でも正確さの面でも劣っている」

 そんな!

「シファさん! なにやってるんですか!」

 ぼくはさけんだが、セレスはその様子をさらに面白がっている。

「情けないわね。それで戦艦?」

 くっそー! 悪役のくせに! シファさんみたいな格好なのに、いちいちなにもかもシファの劣化版そのものじゃないか。そのくせ言葉だけえらそうに!

 ヒロト、シファさんを信じるんだ。ココがそう言う。

「信じたいけど、どうやって!」

 ドローンがますます接近してくる。落としても落としても次から次へと現れる。

 ドローンの動きはある程度読める。学校でのドローンの実習はいつもテストのお助けアイテムだし、空を飛ぶ物はスキだ。だからあの飛行艇の本も借りて読んでいる。

 だけど、それで知ってるからこうして戦えるけど、知ってるからこの形勢が悪いのもわかってしまう。

 そう、GDJ製のドローンにはクセがあって、急旋回前に少し挙動が乱れる。

 その乱れをみれば、フェイントモーションに騙されずにすむ!

 ぼくは必死で撃ち落とし続ける。

 だけど……このままだと押し切られる……!

 だんだん血が泡立つような恐怖を感じた。暇つぶしのはずだったのに、このままじゃシファさんもぼくもやられる!

 シファさん! ぼく、正直、怖いよ……!

「ふーん、そういうセレスの本体はこのコア、セレスティアル・コアだったのね」

 その声にセレスが驚いて振り返ると、遙か彼方の都市物流コアシステムにシファがもう一人いた。

 そしてそこにある装置をなにか調べている。シファさん、なにやってるんですか!

「なによ!」

「いや、ちょっと暇だったんであなたの頭脳の本体はどこにあるのかな、って調べてたの」

「……調べて、何かわかった?」

 セレスは動揺しているが、それを内心に隠すように聞く。

「あなた、それなりにお金かけて作られたのね。どこからそのお金が出たのか興味ある」

 シファさんいつの間に分身してるんですか! しかもこっちをほったらかしで! ぼくは泣きそうになった。

「そう。あなたもお金かけてあるみたいね。連合艦隊の新型艦だってことで」

「まあ、そうだけど」

 シファさん、なにのんびりしてるんですか!

「そういってわたしの建造資金の規模を調べようとしてるんでしょ。でも教えてあげる。2500億円。でも国民一人あたりにすれば一人2500円。クラウドファンディングでもここまでできるわ。それだけタカムスビは恨まれてるのよ。犯罪予測も犯罪防止も失敗続きだったし。その結果、くだらない人間の自由の保護も、犯罪抑止も全て中途半端。犯罪予知が聞いてあきれるわ」

 2500億円!! そんなにかけられちゃう悪の組織、それなのにリーダーもいないなんて!!

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