【08 居場所】

・【08 居場所】


 ファミレスを見つけて、聞き込みをすることにした。

 僕たちの予想として、平日は仕事で家の中にいるはずだから、夕方や夜にファミレスへ行く女性に絞った。

 AIの自動音声を使っていたと思うので、女性か男性かは本当のところは分からないわけだけども、そういう地味な嘘はつかないと思って、女性に絞った。

 そしてこんな授業の方法をとっているわけだから、偏見かもしれないけども、一人で利用する人ということまで決めつけることにした。

 またそのファミレスにはよく作業しに行くということも言っていたので、何かパソコンを出して作業している女性まであたりをつけることにした。

 するとそういう女性に心当たりがあると、店員さんが話してくれて、その人は休日は午後二時くらいから来て作業すると教えてくれた。

 僕たちの学区内は都会というわけではないので、そういう作業する人はどちらかと言えば珍しいといった感じだった。 

 というわけで午後二時くらいまでどこかで暇を潰そうかなという話をしていると、ファミレスの店員さんのご厚意で「好きな時にここに休みに来ていいですよ、席も用意しておくからね」と言ってくださって、じゃあ食事とか休憩とかファミレスでさせてもらいながら、近くの公園で遊ぶことにした。

 あんまり性差の無い遊びということで、かくれんぼとかだるまさんがころんだとかをやっていたわけだけども、何かすっごく楽しかった。

 中学一年生でそんなことは、と脩斗くんも陣くんも否定的だったけども、いざ始まると、本当にみんな熱中していた。

 だるまさんがころんだ中に陣くんが何度も勢い余ってスライディング状態になった時、全員で爆笑したし、陣くんも「ウケるならまあいいわ」という感じだった。

 十二時にはみんなでお金を出し合ってポテトフライを頼んだら、一番安いのにしたはずなのに大盛りにしてくださって、脩斗くんが何度も何度も小声で「いつか埋め合わせしなきゃな」と言っていてミゲルくんが大笑いすると「いやそうだろ」とキリッとツッコんで、みんな吹き出してしまった。いやそうだけども。

 午後二時までまた公園で遊んで、一旦休憩というインターバルがあったにも関わらず、また盛り上がって最高に楽しかった。

 ついにその時刻になったところで、またファミレスへ行くと、店員さんが無言でとある方向を指差して、そこには一人の、メガネを掛けた女性がいた。

 僕たちは呼吸を整えてから、その女性のもとへ行くと、その女性が僕たちを見るなり、ギョッとしたので、正解だと思った。

「先生、恐怖政治はもうしなくても大丈夫です」

 と僕が言うと、即座にミゲルくんが、

「今日めっちゃ仲良く遊んじゃったし!」

 舞さんはうんうん頷きながら、

「すごく楽しかったです!」

 脩斗くんは後ろ頭をボリボリ掻きながら、

「まあガキっぽい遊びだったけどな」

 と言えば、矢継ぎ早に陣くんが、

「一番笑っていたくせによぉ」

 脩斗くんが思い出し笑いをしながら、

「陣のスライディングこけが酷過ぎてな」

「まあ、俺は面白ぇ人間だから」

 と陣くんが自信満々に言うと、浩二くんが満面の笑みで、

「というわけで最高の友達だぜ!」

 とサムアップした。

 女性はポカンと開いた口が塞がらないといった感じだったけども、徐々に柔和な顔になってから、

「そっか、それは良かったですね」

 と優しく微笑んだ。

 先生は僕たちへ席に座ることを促して、僕たち六人は先生の席と隣の席に座った。

 誰が次に喋るのかなと思っていると、おもむろに先生が口を開けた。

「わたしはちゃんと普通の教師を志していたんだけども、昔の記憶が教習生の時代からフラッシュバックしてしまってね」

 僕たちは真面目に先生の話を聞く面持ちになった。

 先生は続ける。

「わたしは元イジメられっ子だったんだけども、ある先生に救われて、それで教師を志したんだけども、やっぱりうまくいかなくて。そんなある日、今年赴任してきた校長先生がわたしのAI技術を知っていたみたいで、こういう教師をやらないかと打診があって。で、流れとしてはあとはみんなと過ごした通りね。ゴメンね、電流なんて流しちゃって。でももう合格です。貴方たちはもう元の教室に戻れます。私はまた必要とされたら別の中学校でこういう教師をやる予定です」

 すると浩二くんが急に声を荒らげた。

「嫌だ! 俺はこの六人でずっと授業を受けたい!」

 脩斗くんは柔らかく笑いながら、

「いやちょっとクラス別れるだけで、中学校は一緒じゃん」

 でも浩二くんは首をブンブン横に振って、

「電流流してもいいから、先生の教室がいい!

 陣くんはう~んと唸ってから、

「でも他の大勢いる教室に慣れろってことじゃね?」

 浩二くんはムッとしながら、

「いいや! 俺はこの教室じゃなきゃ嫌だ!」

 とムッと表情が変わったところに僕は微笑ましさを感じた。本筋とは違うけども。

「なぁ! ミゲル!」

 と浩二くんが言うと、ミゲルくんは前髪をかき分けながら、

「まっ、ぼくは元々保健室登校だったから、みんなと一緒だと有難いけどねっ」

 と言い、脩斗くんが吹き出しながら「カッコつけることではないだろ」と小声で言うと、ミゲルくんは反比例するように大きな声で、

「カッコつけたい時にカッコつければいい!」

 とサムアップして、舞さんが大笑いした。僕は、とふと思って、

「僕も、できればこの六人と同じ教室がいいです」

 と真面目に答えると、陣くんが、

「まあ今更戻りたくもねぇよなぁ、この六人がいいよ、正直に言えばな」

 と言い、脩斗くんが「おれのハシゴ外すなよ」と小声でツッコむように言った。

 脩斗くんは咳払いしてから、

「まあおれもそりゃ六人がいいよ、当たり前だろ、おれだけ薄情にすんなよ」

 すると先生がうんと頷いてからこう言った。

「実はこの中学校、いろいろ問題が多くて、校長先生からはもっと広域にやってほしいと言われているところもあって。でもわたしとAIだけじゃ限界だと思ったからこの仕事が終わったら、みんなが合格だと思ったらこの中学校を去ろうと思っていたんだけども……君たち、六人の絆を見てわたしも本腰入れる覚悟する。ねぇ、わたしとわたしのAIの手助けを君たちにしてもらえないかな。この中学校をもっとより良くしたいんです」

 浩二くんの顔はパァッと明るくなって、

「じゃあこの六人が集まって作戦会議とかいっぱいあるんだな! それならいいぜ!」

 脩斗くんは軽く溜息をついてから、

「つーか集まることなんていつでもできんだろ、でも仕事って何かテンション上がんな」

 陣くんも力強く、

「よっしゃ、つーかマジの挽回チャンスだな。ちゃんとした俺を見せつけてやるよ」

 舞さんも頷きながら、

「私も何かできれば……」

 ミゲルくんは拍手しながら、

「何でもやるよ! この六人と先生となら何かできる気がする!」

 僕も同調するように、

「はい、できることがあれば何でもやりますっ」

 と答えて、全員の意見が一致した。

 というわけでこの六人は特殊班教室となり、中学校の問題を解決していくことになった。

 これからどうなるかはまだ分からないけども、この六人+先生ならきっとどうとでもなると思っている。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIによる恐怖政治先生 伊藤テル @akiuri_ugo5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ