【05 突然】
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・【05 突然】
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突然、池内浩二くんがこう叫んだ。
「急にどうしたん! みんな!」
勿論嫌味の無い笑顔でそれがなおさら怖かった。
すると道本脩斗くんが、
「オマエの過去でみんなビビってんだよ」
と正論ピシャリを言うと、池内浩二くんは照れ笑いを浮かべながら、
「そんなつもりは無かったんだけどなぁ、もっといっぱい楽しい会話しようぜっ!」
とサムアップしたところで、片井陣くんが、
「そんな気味悪ぃヤツと会話してぇヤツなんていねぇよ、おぉぉおおおい! これは正論だろうがぁぁああ! あぁぁああああ! もう! 二連続!」
どうやら電流を二連発で喰らったみたいだ。
すると片井陣くんが立ち上がりながら、
「あぁ! もう関係ねぇ! 一発殴らせろ!」
と、なんと僕のほうへやって来た片井陣くんに高ミゲルくんが片井陣くんの服を座ったまま引っ張りながら、
「普通浩二くんにでは?」
「うるせぇ! 腹立つ時は俊哉を殴ると気分良くなるんだぞ! 全員そうやれや!」
僕はもう殴られること確定だと歯を食いしばると、池内浩二くんが立ち上がり、すると即座に後ずさりした片井陣くん。
それを見て池内浩二くんが爆笑しながら、
「ビビり過ぎぃ!」
と言いながら座ると「ぃぃいいいい!」と言って、どうやら電流が流れたみたいだ。
それを見ていた高ミゲルくんは吹き出しながら、
「ビビり過ぎというかビリビリし過ぎぃ!」
と言って、ついといった感じに小佐田舞さんと道本脩斗くんが笑った。
池内浩二くんも笑って、何だか久しぶりに和やかになったところで、片井陣くんもすごすごと席に着くと、また電流が流れたみたいだった。
すると片井陣くんは僕を睨みながら、
「そもそも俊哉にはやられ根性があって、ヘタレで腹立つんだよ! さっきも歯を食いしばってダッセェぇぇええええええええ! もう!」
そんな、やられ根性って、向こうが、否、片井陣くんがやって来るせいで……いやもう言おう、今は電流という罰がある。
だからこそあえて強気に言うんだ。僕が間違っていれば僕に電流が流れればいいだけだから。
「やられ根性って、やる側が言うことじゃないと思う。やられるからやられてしまうと思うだけで、そんな根性は元々無かったんです」
片井陣くんは吹き出してから、
「いやまた最後敬語になってんぞ! ビビってるからだろ!」
「というかそれぞれ人間には個性があって、全部自分と一緒なんてことはないわけだから、誰の何にどう反応しようと全部それぞれの思った通りでいいんです」
「また敬語だぁ! ぁぁぁあああ! 電流!」
「揚げ足取りじゃなくて、もっとちゃんと会話してください」
高ミゲルくんがうんうん頷きだして、
「いや俊哉は今すっげぇ大切なこと言っているよ、全部自分の好きでいいもんなぁ」
すると片井陣くんが何かに気付いたような表情をしてから、
「じゃあ俺が俊哉を殴りたいと思うことも尊重されるのか? ぁぁぁああああああ!」
「そこは普通に法律やルール、マナーの上で、じゃないの?」
と僕がちょっと小バカにするようなトーンで言ってしまうと、僕にも電流が流れて「わぁ!」と言ってしまった。
片井陣くんはイラっとした感じに、
「何だよ、俺のことバカにしたのかよ。何か言い方があれだったぞ」
「AIって分かるんだね」
と僕が答えると、また僕に電流が流れた。こういう煽りは良くないらしい。
片井陣くんは目ざとく、
「電流喰らったんだな、もう言うのやめたほうがいいぞ、オマエはヘタレだからなぁぁああああああ! あぁっ! もう!」
「いや止めないよ。ずっと人のことをヘタレと言うことが正しいわけないじゃないか、わぁっ」
「何だよ、俊哉のくせに」
「本当にそういう態度良くないと思う。いつか痛い目遭うよぉぉおっ、っとぉ!」
「ほら、やめろよ、もう言うのやめろってモード入ってんぞ、AIってどんどん厳しくなるんだぞ」
「いやちゃんと言わないといけない時に言う。もう二度とそういうこと言わないほうがいぃぃいいい!」
分かってる。どんどん電流は強くなっていってるし、判定も厳しくなっていっているような気もする。
でもちゃんと伝えたい時に伝えなきゃ、きっとまたなあなあになってしまう。
今が言えるチャンスなんだ、この電流というシステムがあるからこそ、今言わなきゃいけないんだ。
片井陣くんは少々困った顔をしながら、
「いやだから、もうやめろって、マジで」
「そもそも暴力で何でも解決するはずないじゃん、この世って法律ってものがあるんだよ? ぉぉおおおおっ!」
ちょっとイヤミったらしく言ってしまったところをちゃんと判定してくるなぁ。
「いや、何か、やめろって、マジで」
「この中学校がもみ消し体質だから助かっているけども、中学校によっては少年院行きだよ? ぉぉおおおっつぅぅううう!」
「いや、ホント、俊哉、どうしたんだ?」
と額から汗を出ているところがこっちからでも分かる片井陣くんと、既にだらだら流している僕。
「本当にそんなんじゃやっていけないよ? ずっと暴力、暴力、もっと強い人がいたらどうすんのぉぉおおおおおおおっ」
「俊哉! やめろって! 短い期間のアウトは一気に強くなるぞ!」
「いいや言う! 僕は片井陣くんの良くないところを言う!」
片井陣くんは矢継ぎ早に、何なら僕の言葉に覆いかぶさるように、
「やめろって!」
と叫ぶけども、僕は続ける決意をかためていて、
「何でも暴力って本当にバカみたい! そんなの下等な動物と一緒だよ!」
「今の言いっぷりはヤバイだろ! おい!」
電流は本当に強い、もう首筋まで痛くて正直気を持ってかれそうだけども、なんとか気合いを入れてまた僕は荒らげる。
「ちょっとは人間らしく頭使えよ! 威嚇と暴力だけで切り抜けられるのは、運が良い人だけだよ!」
「言うな! やめろ!」
そう言って立ち上がって、こっちへつかつかと近付いてきて、片井陣くんは腕を動かして、僕の手を強く掴んできた。
「やめろって! これ以上は危ないぞ! もう俊哉がここに来る前の俺を越えてるぞ! 処刑電流くらいきてんじゃねぇか!」
場合によっては暴力にも見られる行為だけども、片井陣くんは決して強く握りつぶすといった感じではなくて、抑える感じで。
片井陣くんの瞳を見ると、本当に心配してくれているような目で、
「ゴメンなさい」
と僕が頭をさげると、片井陣くんは席に戻って座りながら、
「別に。ディスられるのが嫌なだけだから」
とこっちを見ないで言うと、僕と片井陣くんを交互に見ていた高ミゲルくんが、
「じゃあ仲直りってことで!」
と快活に言うと、道本脩斗くんが「脳筋過ぎだろっ」と呟きながら笑って、片井陣くんは溜息をついてから、
「まあ俊哉がヘタレじゃないことは分かったよぉぉおおおお! 今のは認めたんだからいいだろうがぁぁあああ!」
すると池内浩二くんが、
「いやイジメていた側が認めると終わるとか何か変じゃん、むしろこっちが認めないといけないわけでさ。で、俊哉はどう?」
とこっちを向いたので、僕は思っていることを素直に言うことにした。
「そりゃ片井陣くんへのモヤモヤが全て晴れたわけじゃないけども、止めに来てくれたことは嬉しかったです。ありがとうございます」
すると片井陣くんは「へっ」と笑ってから、
「だから敬語つーか丁寧語やめろ、同級生だろっ」
と少し柔和な顔でそう言った。
すると道本脩斗くんが「別にザコじゃねぇじゃん」と小声で言って、小佐田舞さんはホッと胸をなでおろしたような安心しきった顔をした。
昼休みはそんなこんなで終わり、五限目のチャイムと共に、すぐに先生もやって来て授業をした。
何だか先生はまるで見ていたかのように少し上機嫌で、お気に入りのファミレスの話や教育にもいいような面白いテレビの話を合間にちょこっとした。
五限目、六限目と終わり、ホームルームが終わって先生も多分職員室に戻って行ったところで、片井陣くんが急に、
「おい! 俊哉!」
と言ったので、内心ビクついていると、
「今の言い方も悪かったな、なんつーか、ゴメンな。今まで。あと浩二も、足の引っ張り合いもうしないことにするわ」
と言うと、道本脩斗くんが溜息をついてから、
「俺だけ孤立ってか、とかもう別にいいわ、何か、マジでどうでも良くなってきたわ、隣に俺がいるのにビビらず毎日学校来てさ」
そう言いながら小佐田舞さんのほうを向いた。
小佐田舞さんは縮こまりながらも、
「だって……ママもパパも……学校に行きなさい以外……言わなくなったし……」
「やっぱオマエんとこの両親もそうなんだな、でもそれでもさ。だからなんだ、マジでスマンかった。というか男子が女子イジメるってダサいよな、マジゴメン」
「いや別に……もういいよ……」
すると池内浩二くんが柏手一発叩いてから、
「じゃあさ! 何か上手くいったついでに! 先生に直訴してもう電流やめてもらおうか! きっと俺らが仲良くなればなくなると思うんだよな!」
僕は同調しながら、
「確かに、ちょっとそんな気はしていた」
と言うと、高ミゲルくんも、
「そうそう! ぼくもそう思う! 何か上手くいかせるための装置なんだって!」
「だから」
と矢継ぎ早に声を出した僕に視線が集中する。
僕は落ち着いた声で、
「真面目にみんなで直訴してみないかな、怒りの表情にならないように、真面目な面持ちで」
池内浩二くんは納得するように頷きながら、
「だよな、AIは絶対顔見てるもんな。俺はそもそもの言い出しっぺだから別にいいけど、みんなどう?」
すると片井陣くんが、
「俊哉がビビってねぇのに、俺がビビるわけねぇだろ」
道本脩斗くんはハハッと笑ってから、
「陣、そういう言い方してっとまたなるぞ。まっ、おれは余裕だがな、全部」
高ミゲルくんは吹き出しながら、
「全部って何っ、でもまあぼくも全部大丈夫だよ」
小佐田舞さんも小さく頷きながら、
「私も……やってみたいですっ」
というわけで僕たちは職員室へ行くことにした。勿論事前に少し作戦会議をしてから。
僕はこの校舎を最初にうろついた時に、この旧校舎にも職員室があることを分かっていた。
だからそこに僕が先導するように向かい、職員室のドアをノックして中に入っていった。
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