5日目

起きて!起きろ!!


人の声のアラームで瞼とカーテンが開く、次に目に入るのは海のような空ではなく、涙目で今にも泣きだしそうな少女の顔だった。


「何があった、今何時」

『7時50分!おばあちゃんが!おばあちゃんがぁ...



彼女の言葉を聞き終える前に目覚めた頭がありとあらゆる可能性を提示し始めた

すべて嫌な可能性だった、聞きたくない。



起きたら居間で倒れてたの...』


夢を見ていた体が目を覚まし、思い出したかのように悪寒と冷や汗で背中をなぞる


「きゅ、きゅ、救急車は呼んだのか?まだ倒れてるのか!?いまどうなってんだ!!!」


詰まった言葉はやがて弦を張り怒号へと変化した

れいかは豆鉄砲を食らったような素っ頓狂な顔をしながら涙を流していた


『ついさっき運ばれてった、いっしょに救急車に乗ろうとしたけど腰が抜けて乗れなかった』


「そっか、怒鳴ってごめんね」


 いつもより大きな音を立てるzippoで火をつけ、怒鳴り声のせいでしゃがみこんでしまった少女を抱きしめる、病院までは遠い、今から行くのは骨が折れるから落ち着いたら隣の家の人に説明して連れてってもらおう、そう言おうとしたが


「ごめん...ごめんね...」


 壊れたラジオのように同じ言葉だけを吐いて涙を流した

 

 煙草は火がついてなかったらしく、灰も煙もなかった


 作り話のような一日の始まりだった 

 

 それはもう、きょうだけでいい


 れいかの手を握り放心状態で隣の家に歩いて向かった、道中後ろから子供が泣いた後のような愛らしい鼻をすする音がしていた


 隣の家のおじいさんにまとまりのない言葉で説明をし、俺以外誰も声を出さないまま車に乗りこみ病院についた、そこでやっとれいか以外の人の声を聴き、れいか以外の人の悲しみにあふれた顔を見た。


そういうことだろう、死亡理由を聞き、親族が来るまで空き病室に通された


 白い壁、並ぶベッド、開けたばっかの窓、なびくカーテンから痛いほど刺す

 真夏の日差し


 二度と聞くことのできない木漏れ日のような声


 口に入れることのない暖かい料理

 

 知らないうちに干されてたたまれている服


すべてがもう普通じゃなくなる、伝えきれなかった言葉が吐息となって漏れる


「俺はもうこの家から動かないけど、れいかはどうする」

『私も』


母親や遠い親族が集まり伝えることを伝えて最後に一度、祖母の顔を拝んでまたおじいさんに家まで送ってもらった。


 あの家に住む旨を伝えると気前のいい知らないおじさんが公共料金くらいは払ってやると申し出てくれた、なぜかは知らないがとりあえず頭を下げておいた、虫がいいというか、話がうまくいきすぎだがもうどうでもいい。


 家についてからは朝から固くつないだままの手を解くことなく、同じ布団に入り

眠りについた、結んだ手は楽を求めて恋人つなぎになっていた。


もうなにも、みたくない

 

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