7日目

空気を読まない陽の光は憎いほど僕たちを刺す


 葬式にも通夜にも出るつもりはなかったし出なかった、人は死ぬものだがあんなに突拍子もなく死なれてしまったら信じれるものも信じられない、葬儀に出てしまえばおばあちゃんが死んでしまった事実を認めることになる、認めたくないから出ない。


 そんな子供のわがままを16歳にもなって押し通そうとしている自分に呆れた、いい天気だ。


 れいかが起きる前に朝食の支度をしよう。

冷蔵庫から食パンとハム、卵を取り出して食パンを乱雑にトースターへ入れて焼く、まず2枚。


 庭の畑にポツンと存在していたレタスから4枚程度葉をちぎる、葉を洗い両手でたたくように水を切った、焼けたパンを取り出してもう2枚焼く、焼けるまでに炒り卵を作る、バターと卵が焼けるいい匂いと音が台所に響く、炒り卵とトースターがほぼ同時に終わる、パンにレタス、ハム、卵、レタス、パンの順番で載せて不器用な三角に切りそろえる。


 感情もまとまっていないのにてきぱきと動く手足と自身に嫌悪感を示した。


煙草に火をつけ、すでに水の入っているやかんにも火をかける、マグカップを二つ取り出し紅茶のティーバッグを入れる、お湯が沸くまでしゃがみ込む。


『おはよう』


透き通るような声は黒い感情を孕んでいるように思えた。


「おはよう」



 昨日一日は永遠と思えるほど長く、お互いに食事もとらず飲み物だけを飲み、各自の思いに集中していた、タバコに火をつけ吸い、灰を落とし、火を消してまたつける。

田舎というのはとてつもなく閉鎖的なコミュニティでうわさも事実も一瞬で広まってしまうのである、そしてそこには哀れみだけでなく嘲笑も交じっているのである。


 れいかはここにきて寛解していた鬱が身近な関わりの死によって始まりに逆戻りしてしまったようだ、初めて会った時の態度は消え去ってしまった、恋愛的な意味なのか心の支えにしているのか快楽を求めているのか、彼女は時折抱擁や接吻を求めるようになっていた。



「今日はサンドイッチだよ、紅茶も今入れてるから少し待っててね」

『うん』


 彼女は返事とともに両手を広げ抱擁を求めた、ここで断ったら彼女はどういう反応をするのだろうか、ここで僕が実家に帰ったら彼女はどうなってしまうのだろうか、そんなことを考えながら熱い抱擁を交わす、自身の胸に残る彼女の手の感触は妙にリアルで僕の胸のピアノを弾いて忘れることのできない旋律を奏でているようだった。


 冷めかけた紅茶と冷蔵庫に入っていた苺を食卓に置き二人横に席に着く

彼女はサンドイッチの半分を食べ終えると苺を口に放り込みまたサンドイッチにかぶりつく、なんて自由奔放な食べ合わせなんだ。


 食器を片し、洗い終わると彼女はひっそりと咲く一輪の花のように、誘うようににやりと笑いそそくさと部屋に行ってしまった、そういうことだろう。


 部屋につくと風になびくカーテンに差し込む日の光、その先には白いワンピースを着た真っ黒な髪の女の子が座っていた、それはまるで彼女のすべてを表しているようだった。


彼女の頭から流れるように頬、鎖骨、胸、お腹、腰、足、最後に下半身を愛撫する。


 甘く漏れるような嬌声、作り物のような白いからだ、息が詰まるほどの汗の匂い、手に残る彼女の感触、桜色に染まる彼女の顔から読み取れるはお互いの存在の証明。


真っ白な悪魔に誘われるまま彼女の首を絞める、背徳感と人を追い詰める快感が己が手にあふれるほど湧いてくる。



 歪んだ愛がお互いを証明する


 

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僕のささやかな夏休み ウグイス @uguisukinnmoku777

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