第7話 - 朝、少しだけ揺れたもの
朝はいつも同じ。
決まった時間に起きて、顔を洗い、朝食を取り、制服を整える。
まるで歯車のように、ズレのない完璧な動き。
今日もそうだった。
いつも通りの手順、同じテンポ、同じ景色。
廊下を歩いて、エレベーターを降り、マンションのロビーに足を踏み入れる。
そして、ドアを開けたとき——
そこに、彼女がいた。
道端の街路樹の下、制服の上から軽く羽織ったカーディガン。
風に揺れる淡い色の髪。
そして、イヤホンを片耳だけに差し込んだまま、こちらに背を向けて歩いていた。
不思議だった。何か用事でもあったのだろうか。
それとも、ただ早く目が覚めて、外に出てみたのか。
理由は分からない。でも——
その一瞬だけで、ユウの朝の“完璧”は、静かに揺れた。
まるで、耳の奥で鳴っていた音楽のリズムが、わずかにズレたような違和感。
何が変わったわけでもない。ただ、その景色に心が引っかかった。
彼女が振り返ることはなかった。
ユウの存在に気づいた様子もない。
それでも、なぜか目が離せなかった。
背中を追ってしまった。
それが何か意味を持つものなのか、自分でもよく分からないまま。
ただひとつ言えるのは、
あの朝、確かに何かが——少しだけ、変わり始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます