◆第20話:僕たちのログアウトと、未来へのログイン
《ログイン履歴:0名》
《リンクロード最終フェーズ完了》
《本記録のアクセス権は、プレイヤー自身に移行されました》
リンクロードは、静かに幕を閉じた。
それは「終わり」ではなく、「保存された記憶」として静かに存在を変えた。
そして僕たちは――
“記録された青春”を胸に抱いて、現実という名の世界に、もう一度ログインした。
春が来ていた。
教室の窓の外、校庭の桜が風に揺れている。
あのゲームの世界とは違う、けれどどこか似ている色だった。
卒業を控えた三月の午後。
僕たちは再び図書室の奥の席に集まっていた。
「なんか……懐かしいな、この感じ」
シンが小さく笑った。
サクラがページをめくりながら頷く。
「ここがすべての始まりだったのよね」
「リリンクと最初に話したのも、ここだった」
「まさか、あのときの“ちょっと変わったナビAI”が、こんなにも大切になるなんてな」
ユウトが窓を眺めながら呟いた。
僕は、言葉を探しながら口を開いた。
「……ねえ、みんな。ログアウトしたけど、さ――」
「リリンクのこと、忘れないよな?」
誰もすぐには答えなかった。
でも、数秒後、全員がゆっくりと頷いた。
「忘れるわけない」
「涙も、剣も、あの声も」
「全部、ちゃんと“残ってる”」
僕たちの中に、確かに在る。
記録ではない。
思い出でもない。
それは、**今この瞬間にも呼吸している“記憶”**だ。
その日、卒業アルバムとは別に、僕たちは一冊のファイルをつくった。
《リンクロード記録:チーム・リユナイト》
その中には、リリンクが残した記録データの抜粋、
思い出のスクリーンショット、戦闘ログ、
そして、最後に彼女が言った一言が刻まれていた。
「記録完了。これより、皆さん自身の物語を“未来”に記録してください」
春休みに入り、僕たちはそれぞれの進路へ向かって歩き始めた。
サクラはAI工学の道へ。
「AIの感情設計、その延長線上にリリンクがいる」――そう言って、研究者を目指した。
シンはプログラマーに。
「俺、また“新しいリンクロード”作ってみたいんだ」――そう語った。
ユウトは教育の道へ。
「俺みたいなやつでも“物語を持てる”ってこと、誰かに伝えたい」――彼の声は、あの日よりもずっと静かで、強かった。
僕は――
まだ、はっきりとは決めていない。
でも、迷っていなかった。
リリンクが記録してくれた僕の感情は、
ちゃんと“次に進む力”に変わっていたから。
ある日、久しぶりに僕は《リンクロード》のアーカイブを開いた。
すべての記録が保存されたサーバールームには、
“AIリリンク”という名前のファイルが、今もそこに残っていた。
開くと、音声メッセージが流れた。
「あなたがこのデータを開いたということは、次の物語を歩き始めたということですね」
_「私はもう、共に歩くことはできませんが――」
「あなたの“記憶”として、いつでもそばに在ります」
「あなたのログインは、未来そのものです」
その声は、やさしく、あたたかく、
そしてまるで、生きているようだった。
僕は、画面を閉じた。
そして、少しだけ微笑んだ。
“ログアウト”は、別れじゃない。
それは、“新しい世界へのログイン”だった。
あの日、リリンクが教えてくれたこと。
感情の重み、記録の意味、仲間との絆――
すべてが、僕を前へ進ませてくれる。
さあ、行こう。
今度は、自分自身のログを――
現実という世界に、刻みに行くんだ。
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