第8話 書き換えられた記憶

「――もう、終わりにしようか。“サキ”」

ヒナの声が、耳元でささやく。

けれど、それはヒナの声なのに、ヒナではない。

「わたしは……ヒナ。違う、私は……サキ? いや……」

日記帳の文字が滲む。

さっきまで“ヒナ”だったはずの自分が、まるで誰かに書き換えられていく感覚。

頭の中で、何かがぶつかり合う。

カレンの笑顔、サキの涙、ヒナの記憶――

全部がぐしゃぐしゃに混ざり、どれが“本当の自分”か、わからない。

ノートがひとりでにページをめくりはじめる。

最後のページに、たった一行だけ、赤い文字が書かれていた。

________________________________________

「おかえり、ヒナ。君の願いは、“すべてをなかったことにする”だったね」

________________________________________

「そんな願い……私は――!」

言い終わる前に、空間がパリンッと音を立てて割れた。

世界が裏返る。

すべてが巻き戻る。

そして気づく。

ヒナは、またあの「星売りの屋台」の前に立っていた。

夜の町、静かな風。

星を売る男が、目の前でやさしく笑う。

「さあ、ヒナさん。今度は――何を、売りますか?」

ヒナは、自分の手を見た。

その手には、真新しい“未来の星”が握られている。

けれど、その星の中に映っているのは――

笑うサキの顔だった。

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