第8話 書き換えられた記憶
「――もう、終わりにしようか。“サキ”」
ヒナの声が、耳元でささやく。
けれど、それはヒナの声なのに、ヒナではない。
「わたしは……ヒナ。違う、私は……サキ? いや……」
日記帳の文字が滲む。
さっきまで“ヒナ”だったはずの自分が、まるで誰かに書き換えられていく感覚。
頭の中で、何かがぶつかり合う。
カレンの笑顔、サキの涙、ヒナの記憶――
全部がぐしゃぐしゃに混ざり、どれが“本当の自分”か、わからない。
ノートがひとりでにページをめくりはじめる。
最後のページに、たった一行だけ、赤い文字が書かれていた。
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「おかえり、ヒナ。君の願いは、“すべてをなかったことにする”だったね」
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「そんな願い……私は――!」
言い終わる前に、空間がパリンッと音を立てて割れた。
世界が裏返る。
すべてが巻き戻る。
そして気づく。
ヒナは、またあの「星売りの屋台」の前に立っていた。
夜の町、静かな風。
星を売る男が、目の前でやさしく笑う。
「さあ、ヒナさん。今度は――何を、売りますか?」
ヒナは、自分の手を見た。
その手には、真新しい“未来の星”が握られている。
けれど、その星の中に映っているのは――
笑うサキの顔だった。
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