第6話 偽りのヒナ

そこに立っていたのは、もうひとりの“ヒナ”。

同じ髪、同じ顔、同じ制服。

でも――目だけがちがった。

その“ヒナ”の目は、底が見えない闇のように黒くて、まばたきもしない。

「こんにちは、“もうひとりのわたし”。」

にやりと笑う偽ヒナ。

「カレン、ごめんね。君が動くのが早すぎた」

偽ヒナがそう言った瞬間、カレンの体が**バチンッ!**と何かに弾かれたように吹き飛んだ。

「カレンッ!!」ヒナは叫んで駆け寄ろうとした。けれど――足が動かない。

まるで床に縫いとめられたみたいに。

偽ヒナが、近づいてくる。

「ヒナ。ねえ、どっちが“本物”だと思う?」

「……は?」

「本物のヒナはね、星を買った“あと”で、もう一度売りに来たの。自分の未来を。」

「……!」

「でもそのとき、もう1人の子が星を欲しがった。“サキ”って子。

ヒナの願いと、サキの願いが重なったとき――交換が始まった」

偽ヒナはニコリと笑う。

「だから今、決めていいよ」

「――誰の未来を“消す”か」

そのとき、ヒナの足元に“もうひとつの星”が転がってきた。

その星の中には、自分・カレン・サキ・偽ヒナの4人が並んだ未来の景色が映っている。

けれど、少しずつ、ひとり、またひとりと――輪郭がぼやけていく。

最後に残ったのは、ただひとりの影。

だが、その顔は――ヒナ自身ですら思い出せなかった。

「……私って、誰だったっけ」

そうつぶやいたとき、偽ヒナが耳元でささやいた。

________________________________________

「それを忘れたとき、あなたは“わたし”になるのよ」

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