第7話

 


「シザ君」




 カシャン、と鍵が足元に落ちる。

 鞄と、本を抱え、新たに出された課題の書類を首に挟みながら自室の鍵を開こうとしていたシザはたじろいだが、後ろからすぐに手が伸び落ちた鍵を拾ってくれた。

 鍵を拾った女学生はシザの代わりに鍵を扉に差し込んで開けてくれる。

「ありがとう」

 シザは開いた扉から中に入り、入口の側の棚に鞄と本を置いた。

「ごめんなさい、突然話しかけて。

 私、法学部のマルタ・ケネス。

 そこの部屋に住んでるの。

 一週間くらい風邪で寝込んでて……次のエバンズ教授の課題提出日教えてもらってもいいかな?」


 ああ、とシザは課題を手に取った。

「今回の課題は……。二月十六日が最終提出日になってるよ」

「二月十六日ね。ありがとう」

「いいよ」

 

 マルタはシザの顔を見て来た。

「このリースアンバーの学生寮、同じ法学部はシザ君だけだから、

 ずっと挨拶したかったんだけど。

 やっときっかけがあったわ」

 シザは目を瞬かせてから、笑んだ。

「こちらこそ」

「これからもよろしくね」

 握手を交わす。

「うん」

 マルタは少しだけ嬉しそうな顔をして、歩いて行く。

 部屋は角を曲がった向こうのようだ。


「具合は良くなった?」


 角を曲がろうとしたマルタが振り返る。

「風邪が酷かったって言ってたけど」

 シザが言うと「ああ」、彼女は頷いて笑った。


「昨日からやっと起き上がれるようになったの。

 でも、もう平気」


「そう。良かった。何かあったらいつでも」

「ありがとう」


 マルタは微笑んでから角を曲がって行った。

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