短編集
一条院彩子と聖歌「聖歌様観察日誌 ~春のお茶会準備編~」
入れるタイミング逃してた学園パート
時系列:プロローグ約一週間後、高等部二年星組主催の「春霞のお茶会」準備期間中
聖アストライア女学園高等部二年星組の教室では、来週末に催される春霞のお茶会の準備が、
「皆様、お菓子の選定リストができましたわ。ご確認をお願いいたします」
彩子の凛とした声が響く。
彼女の白い指が示したリストには、老舗和菓子店の季節の練り切りや、学園御用達パティスリーの特製マカロンなどが並んでいた。
そのリストを、ひときわ熱心な眼差しで見つめているのは、もちろん
「まあ、彩子様。このうぐいす餅、なんて愛らしいのかしら? この、
聖歌は、リストの一項目を指差し、うっとりとした表情で語った。
周囲の生徒たちは、聖歌の独特の表現に「まあ、聖歌様ったら」「本当に美味しそうに聞こえるわ」と微笑ましげに頷いている。洗脳済みかな?
彩子は、そんな聖歌の言葉に深く頷き、手にした万年筆でリストに印をつけた。
「さすがは聖歌様ですわ! そのうぐいす餅、わたくしも特に素晴らしいと思っておりましたの。聖歌様のお言葉を伺い、その魅力が一層際立ちましたわ。では、こちらはお茶会のメインのお菓子の一つといたしましょう」
次に議題は、お茶会で飾るお花について移った。
「お花は、やはり春らしく、桜や桃、菜の花などがよろしいかしら」
「菜の花いいですわよね。おひたしとか大好きです」
「まあ、でしたらお茶会にそちらも出しましょう」
「そうしましょう!」
お嬢様のお茶会に果たして菜の花のおひたしは合うのだろうか? 確かに美味しいが……そもそも飾る花の話だったはずと、話の流れがお婆ちゃんじみてきたところで聖歌が静かに手を挙げた。
「それも素敵ですけれど、わたくしからの提案もよろしいかしら? 今年のテーマは春霞ですもの、その霞の向こうにぼんやりと見えるような、幻想的で、そして何よりも手触りの良いお花を選んでみてはいかがでしょう?」
「手触りの良いお花、ですって?」
彩子が興味深そうに聞き返す。
「ええ。例えば、ビロードのような花弁を持つ
聖歌は、目を閉じ、まるでそこに実物があるかのように空間を優しく撫でながら語った。その姿は、もはや詩人か芸術家のようであった。
彩子は、聖歌のその言葉を一言一句聞き漏らすまいと、熱心にメモを取っていた。
(聖歌様の感性は、いつも我々の想像を遥かに超えていらっしゃる……! 花の選定基準が手触りとは、なんて斬新で、そして深遠なのかしら! きっと、その奥には、わたくしなどには到底計り知れない、宇宙の真理にも通じるようなもふもふ哲学がおありになるに違いないわ……!)
彩子の聖歌に対する尊敬の念は、この日もまた一段と深まった。もふもふ哲学ってなんだろう。
お茶会の当日、聖歌の提案通りに活けられた花々は、その幻想的な美しさと、思わず触れてみたくなるような柔らかな質感で、来場者たちを魅了したという。
そして、聖歌がうぐいす餅を頬張る際の、あの至福に満ちた表情は、彩子の心に春のもふもふな思い出として、永遠に刻まれることとなった。
一条院彩子の聖歌様観察日誌には、この日もまた、新たな輝かしい1ページが書き加えられたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます