Record04「発露」
拠点の周囲には各地から避難してきた者が集い、星の仔らへの恐怖から息を潜めていた。
そんな彼女たちの元へ、思わぬ協力者が現れた。大学で超常現象を研究していた神代教授と、彼の助手である天才科学者、
彼らは、政府の極秘プロジェクトの一環として、魔法少女の存在を独自に調査し、ついに彼女たちの拠点を発見したのだ。
「驚かせてしまったかな、諸君。我々は、君たちの敵ではない。むしろ、君たちの力を、この星の未来のために役立てたいと考えている」
神代教授は、穏やかな口調で語りかけた。ケイは、大きな丸眼鏡の奥の瞳を好奇心で輝かせながら、魔法少女たちと妖精たちを食い入るように見つめている。
「あなたたちは……政府の人?」
美琴が警戒するように尋ねた。
「まあ、それに近いかな。我々は、あの日、空から降ってきた
神代教授は、いくつかの資料と、試作段階の小型装置をテーブルに広げた。それは、ザ・ワンのエネルギーパターンの極めて断片的な解析結果と、魔法少女の魔力を一時的に増幅させるかもしれないという実験装置だった。
「このエネルギーパターン……似てると、ウヴォアーも言っている……!」
結が、資料を指差して叫ぶ。
「とっつぁん、何か分かると?」
翠がゼニーに尋ねる。
ゼニーは、コンやイヤハトーズたちと小さな声で何かを話し合った後、代表して翠に伝えた。
「……このアウター・ワンと呼ばれる存在は、我々の世界にも伝わる、宇宙の始原に関わる強大な概念存在の一つの可能性が高いべ。その目的は不明だが、存在そのものが周囲の環境と生命エネルギーに大きな影響を与える。直接的な破壊は好まないように見えるけんど、その影響下に長く置かれた生命体は、感情のバランスを失い、やがて精神的な死に至るべ」
「感情のバランスを……」
雫が息をのむ。
「そして、この資料にあるエネルギー吸収パターン……もしかしたら、あいつは、私たちの感情そのものを喰らっているのかもしれないわね」
ケイが、冷静に、しかしどこか興奮したように付け加えた。
「感情を喰らう……? そんな……」
美琴は絶句した。
「だとしたら、私たちが恐怖や絶望を感じれば感じるほど、奴は強くなるってことか?」
萌が憤慨する。
「その可能性は高い。だからこそ、我々は希望を捨ててはならないのだ」
神代教授が、力強く言った。
「この装置は、君たちの魔力を一時的に共鳴させ、増幅させることを目的としている。効果は未知数だが、試してみる価値はあるだろう。そして、我々が集めたデータによれば、アウター・ワンは、特定の周波数の音波や、強い指向性を持つ純粋なエネルギーに対して、僅かながら回避行動のようなものを見せる傾向がある」
作戦会議は、深夜まで続いた。五人の魔法少女と五匹の妖精、そして二人の科学者。彼らは、それぞれの知識と能力、そして勇気を持ち寄り、初めての本格的な連携作戦を練り上げていった。
作戦目標は、ザ・ワンの討伐ではない。それは現時点では不可能に近い。
目標は、現在ザ・ワンが停滞している大都市圏から、その進行方向を変えさせ、できる限り人口の少ない山間部へと誘導すること。
そして、その間に、神代教授たちが開発中の、より広範囲に影響を与えられる可能性のある対アウター・ワン用・高周波バリアシステムの完成までの時間を稼ぐことだった。
「まず、うちと萌の炎と風で陽動し、奴ん注意ばこちらに引き付ける」
翠が、地図を指差しながら説明する。
「そん隙に、美琴の氷で奴ん足元ば凍結させ、動きば鈍らしたる。雫は、広範囲に水ん結界ば展開し、奴の精神干渉波を少しでも和らげる。そして、最も重要なのが、結ちゃん。あんたの大地の力で、奴ん進路ば物理的に変更させるとよ」
「ウヴォアー……私に、そんなことができるかな……」
結が不安げに呟く。
「大丈夫だ、結!」
萌が、彼女の肩を力強く叩いた。
「私たちみんなでサポートする! 私たちの力を合わせれば、きっと奇跡だって起こせるはずだぜ!」
「……うん!」
結の瞳に、強い光が宿った。
妖精たちは、それぞれのパートナーに寄り添い、魔力を分け与え、戦術を指南した。
コンは美琴に、より効率的な氷の結界の張り方を。
ゼニーは翠に、風の流れを読んで敵の動きを予測する方法を。
イヤハトーズは萌に、炎の威力を最大限に高める集中法を。
バハムートは雫に、水の治癒力を高める祈りの言葉を。
そしてエルゴレアは結に、
作戦決行は、三日後の夜明け。
彼女たちの、そして地球の運命を賭けた、最初の反撃が始まろうとしていた。
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