Record03「排臨」

 その頃、世界の指導者たちは、依然としてザ・ワンの正体も目的も掴めず、混乱の極みにあった。

 既に核攻撃は行ったが、それも無駄に終わった。ザ・ワンを前に核すらも効果は発揮せず、まるで最初からなかったかのように、核ミサイルは消滅する。

 軍事力は無力であり、外交交渉の相手もいない。ただ、一部の科学者や研究機関が、この異常事態の原因を探るべく、必死の調査を続けていた。


 日本のとある大学の若き物理学者、神代かみしろ教授は、世界各地で観測される異常なエネルギーパターンと、ごく稀に記録される少女たちの戦闘映像との間に、ある種の関連性を見出し始めていた。


「このエネルギー……通常の物理法則では説明がつかない。だが、あの少女たちの放つ光と、どこか似ている……まさか、彼女たちが、この災厄に対抗できる唯一の存在だとでも言うのか……?」


 神代教授は、政府や軍部に働きかけ、この超常現象と戦うための専門機関の設立を訴え始めた。

 それは、後にガーディアンズと呼ばれることとなる組織への小さな、しかし確かな一歩であった。

 その研究室には他に、風変わりな天才女性科学者の姿もあったという。

 彼女は、神代教授の集めたデータの中から、既にザ・ワンの放つエネルギーにある種の知的パターンと極めて高度な感情スペクトルへの反応を見出し、「あれは、もしかしたらコミュニケーションを求めているのかもしれませんわね……それも、とびきり破壊的な方法で!」と、周囲を凍りつかせるような仮説を立てていた。




 美琴と翠の出会いを皮切りに、日本国内で活動していた数人の魔法少女たちが、まるで何かに導かれるように、次々と接触を果たしていった。

 炎を操る快活な少女、赤城あかぎもえと、そのパートナーである火蜥蜴の妖精イヤハトーズ。

 水を操り治癒を得意とする物静かな少女、水無月みなづきしずくと、魚の姿をした妖精バハムート。

 そして、大地を操る力を持つ、最年少ながらも芯の強い少女、土御門つちみかどゆいと、モグラのような妖精エルゴレア。


 彼女たちは、それぞれの妖精から「仲間を探せ。力を合わせなければ、この星は滅びる」という、漠然とした、しかし切実なメッセージを受け取っていた。


「みんな、本当に魔法少女なんだね……私、ずっと一人だと思ってたから……」


 萌が、涙ぐみながら言った。


「私もです。この力が何なのか、何のために戦うのか、分からなくて……でも、皆さんと会えて、少しだけ、希望が見えた気がします」


 雫が、静かに微笑んだ。


「希望……? あんな化け物相手に、希望なんて持てるの……? ウヴォアー……」


 結は、まだ弱気だった。


「一人じゃ無理でん、みんなとなら!」


 翠が、美琴の手を強く握った。


「私たちは、もう一人じゃないんだから!」


 美琴が強く頷き返す。


「そうだぜ! 私の炎と、翠の風、美琴の氷、雫の水、結の土! 五つの力を合わせれば、きっと何かできるはずだ! 私の炎が全部燃やしてやるぜ!」


 萌が、拳を握りしめて続ける。


「あはは……それだと私の氷、解けちゃうよ」


 美琴が萌にそう返す横で、最年少の結は、お守りのように握りしめていた小さな土偶を見つめながら、力強く頷いた。


「ウヴォアーも言ってる……みんなと一緒なら、怖くない……結、強い。力溢れる。地球みんな守る……!」


 彼女たちの会話を、それぞれの妖精たちが、心配そうに、そして期待を込めて見守っていた。


「いよいよじゃのう、コンよ。イグニスの意志よ。今こそ再熱の時……」


 イヤハトーズが、小さな炎を揺らめかせながら言った。


「ええ。彼女たちが、この星の最後の希望となるか……全ては、彼女たちの絆ぱわーにかかっている。わたしさまの……ルナリアの願いは今ここに成就する……そう信じてます」


 コンが、静かに応じた。

 絶望的な状況の中で、小さな光が集まり始めた。それは、まだか細く、いつ消えてもおかしくないような儚い希望の光だったが、確かに、反撃の狼煙を上げるための、最初の煌めきであった。


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