第3章 前半(神谷悠真サイド)



月曜日の朝。

ホームルーム前の教室は、週の始まりにしてはやけに明るくて騒がしい。

クラスメイトたちは週末の出来事を思い思いに語り合い、机をくっつけて笑い声を響かせている。


そのざわめきの中、俺はいつも通り窓際の席に着いていた。

制服の袖口をいじりながら、ぼんやりと空を見上げる。


(……昨日、すごかったな)


あのイベントのことが、まだ頭から離れない。


レイ=ミラージュとして参加した撮影イベント。

衣装もウィッグも完璧に仕上げて、ポージングも決まった。

けれど、それ以上に印象に残っているのは――


(……みるる。さん)


ツーショットを頼まれて、並んで立って、短いけどちゃんと会話して。

「初めまして」「よろしくお願いします」

「ありがとうございました」

ほんの一瞬のやり取りだったのに、ずっと胸に残っている。


(また……会いたいな)


“友達になりたい”って思ったのは、レイヤー仲間として純粋に。

でも、もし次も会えたら、もっと話したいって、自然と思ってしまっていた。


「神谷くん、今日のプリント回してくれる?」


「えっ、あ……はい、すぐ……」


声をかけられた瞬間、現実に引き戻されてプリントを取り出す手が少し震えた。

数枚をまとめて前の席へ回しながら、そっと横を向く。


隣の席――佐倉美咲。


黒髪ストレートに涼しげな横顔。ノートにさらさらとペンを走らせていて、いつも通り隙がない。

クラスでは頼れる優等生、誰もが一目置く存在。


(……あの人も、昨日みたいなイベントに行くこと、あるのかな)


ふと、そんなことを思ってしまう。

ただの妄想だ。佐倉さんと俺は接点もないし、そもそも話したことも数えるほどしかない。


でも――なぜか気になる。


(……まさか、ね)


ありえないと頭では思うのに、気づけば目で追ってしまっている自分がいる。


みるる。さんの笑顔。話すときの口調。ポージング。

思い出せば思い出すほど、なんだか佐倉さんの雰囲気と重なる気がして――


(いや、やめよう。勝手にそんな風に重ねるの、失礼だ)


自分にそう言い聞かせるけど、視線が自然とまた隣に戻る。


彼女はそのまま、変わらずペンを走らせていた。

視線が合うこともなければ、言葉を交わすこともない。

だけど、なんとなく、気になってしまう。


――昨日、出会ったあの人と。

――今、隣に座っているこの人。


名前も、声も、全然違うはずなのに。

不思議と、その“気配”だけがどこか似ている気がする。



---


昼休み、机に顔を伏せながらスマホのメモアプリを開いた。


「次のイベント衣装案」


自作衣装のスケッチ、キャラの設定、色合いのバランス。

それと、「もし、またみるる。さんと並べるなら」という前提で考えた、ちょっとだけ華やかな色味。


(……考えすぎかな)


でも、想像するだけで楽しい。


「次は、もう少し自然に話せたらいいな」


教室のざわめきの中、俺だけが少し違う世界の続きを夢見ていた。



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