第3章 後半(佐倉美咲サイド)

月曜日の朝。


登校してすぐに机に着き、配られたプリントに目を通しながら、私は昨日の出来事を何度も思い出していた。


イベントの空気、衣装の手触り、シャッターの音。


そして、黒いマントを翻して現れた――“レイ=ミラージュ”。


(……まさか、あんなふうにツーショットを頼まれるなんて)


あれは完全に予想外だった。


でも、少し嬉しかった。


私なんかと並んで大丈夫かな、浮かないかな、と不安になったけど…… 彼の方から、戸惑いながらも優しく応じてくれたあのひと言が、ずっと耳に残っている。


「……あ、えっと、はい……」


それだけのやり取りなのに、胸の奥にすっと入り込んできた。


彼の瞳はまっすぐで、でもどこか不器用で。


その後、ほんの短い間だったけど、一緒にポーズを決めて、写真を撮って、少しだけ言葉を交わして。


あれは、間違いなく“初めまして”だった。


けれど、なんとなく――もっと前から知っていたような、不思議な感覚もあった。


(……次も来てくれるかな)


昼休み。


お弁当を開きながら、私はぼんやりと隣の席に座るクラスメイトを見ていた。


神谷悠真くん。


あまり話したことはない。


というか、ほとんど接点がなかった。


でも、静かで、いつも一人で本を読んでいる姿が、なぜか今日は気になった。


(落ち着いていて、声をかけづらい感じ……でも、全然嫌な雰囲気じゃない)


目が合いそうになると、なぜか少しだけ緊張する。


(バレてるわけじゃ、ないよね?)


もちろん、彼にとって私はただのクラスメイトで、“みるる。”なんて知らないはず。


私も、昨日の“彼”の正体なんて分からない。


でも、何か……不思議な繋がりを感じてしまう。


そんなこと、誰にも言えるはずもないけれど。


(あの時、名前、ちゃんと聞いておけばよかったな)


でも、次のイベントでもしまた会えたら。


その時は、少しだけ勇気を出して話してみよう。


名前を聞いて、自分の名前も名乗って。


今度は、“レイ=ミラージュ”と“みるる。”じゃなくて、少しだけ――本当の自分として。


カバンの中から、次のイベントの参加要項を確認して、制服のポケットに入れ直す。


次は、どんな衣装にしよう。


あの人とまた並ぶかもしれないなら、色合いを少し合わせてみるのもアリかも。


(……やっぱり、考えすぎかな)


それでも、どこか楽しい。


机の下でそっとメモを開きながら、私は次の週末を思い描いていた。


ほんの少しだけ、期待しながら。


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『鏡の中のふたり』 @hatarakuATM

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