第2話 青春
「さぁ~て、俺はどこのクラスかなぁ~っと」
シェイラと肩を並べてクラス分けの貼り紙前まで移動する。
下駄箱前には木製で作られた縦長の看板が合計で3つ設置されており、それぞれ1年~3年生達のクラス分け貼り紙が貼り付けられている。
この木製看板は入学式や卒業式の時にも、式名を表示するのにも毎年使われている。
今年は新1年生達が多く入学している為、本来はA~D組までなのだが、1年生のクラス分けにはE組が追加されている。
「んん~...」
俺は3年A組の欄からズラッと書かれた生徒の名前一つ一つ見ていく。
名前と名前の間隔が狭いせいか、なかなか自分の名前を探し出すのが大変で目が疲れる...。
「あっ! 滝斗の先輩、私の名前あったですよ!」
自分の名前を見つけたシェイラは、俺の右袖を軽く摘まんでクイックイッと引っ張ってくる。
「おっ、どこだ?」
「ここです! 3年C組です!」
シェイラが指差した所に視線を向けると、確かに3年C組の女子生徒欄に二ノ宮シェイラと書かれた名前を発見する。
「シェイラは下の名前がカタカナだからくっそ分かりやすいな」
「はい! パッと見て見つけられましたですね!」
シェイラ以外の生徒は全員名前が漢字だ。
だから、唯一下の名前にカタカナが入っているシェイラは、適当に名前を見てるだけですぐに見つける事が出来る。
「あっ、滝斗の先輩のお名前もありましたですよ!」
「お! どこどこ!?」
「ここです!」
するとシェイラは、人差し指でズラッと並ぶ名前の中から、ある1つの名前に指を差し俺はその指先に視線を向けた。
そこにはなんと、二ノ宮シェイラの名前のすぐ真横に和原滝斗の名前が書かれていたのだ。
「わぁ! 滝斗の先輩、今年は同じクラスですね!」
シェイラは可愛過ぎるほどの満面な笑顔を放つ。
その美少女の笑顔に周囲の生徒達は、皆揃いに揃ってシェイラの笑顔に目が釘付けにされる。
「そうだな。シェイラ、今年は同じクラスとしてよろしく頼むぜっ」
「はい! こちらこそです!」
こうしてシェイラと同じクラスとなった俺は、早速シェイラと下駄箱へ向かい、新しく1年間お世話になる3年C組の教室へと向かう。
☆☆☆
朝礼が始まる5分前。
ほぼ全生徒が各自新教室への移動が済み、新しくなった教室、そして同じクラスになったお友達によってテンションが上がっている生徒達は、ワイワイとお喋りで盛り上がる。
もちろん、隣の教室からも賑わっているのが分かるほど、生徒達の声で溢れている。
一方俺の居る3年C組では、一部別でお喋りする生徒も居るが、おおよそ8.5割以上の皆が窓側の一番後ろの席に座るシェイラの周りに集まっている。
「あのシェイラさんと同じクラスになれるなんて夢みたい!」
「相変わらず綺麗だなぁ...! 神の子だろこれ!」
「シェイラさん! あの、握手してください!」
男女問わず大人気なシェイラは、臨機応変に全員の対応をする。
耳が痛くなりそうなほどに話しかけられているにも関わらず、嫌な顔1つもせずに笑顔で対応する。まさに女神だ。
そんな幼馴染みの姿を横目に、またもや俺は誇りに思った。
よくよく考えれば、シェイラとは物心つく前からの仲だが、本当に立派に成長したものだ。
当時の俺も幼い子供だったが、いつどんな時でも必ず俺の後ろをついて来るような可愛い存在だったな。
それが今では、アイドルや女優なんて簡単に負かす事が出来るくらいの美人に成長しているんだ。
時の流れとは...実に早いもんだ。
「..........」
俺はシェイラの横顔をじっと眺めながらそう内心で呟く。
「ほんと、長い道のりだと思っていたこの高校生活も、この1年で最後か。こうして思うとあっと言う間だったな」
俺はシェイラから視線を反らし、両手を後頭部に密着させて椅子の背もたれに身を預ける。
そして、教室の天井をボーッとただただ見つめる。
「あーあ、俺の青春も...たったのあと1年かぁ.........おん? 青春???」
ふと呟いたその言葉に、まるで脳内に電流が走ったかのように引っ掛かった俺は、脳をフル回転させる。
青春...青春...?
高校生活と言えば...人生で一番楽しい時期。最も、ピークと言っても過言ではない。
高校生活...言い換えれば青春。
青春とは一体どう言うものだ?勉強?運動?読書?違う、違う違う違う...!!
恋愛だろォォォォォォォォォォォォォォォ!?!?
俺はパッと両目を大きく見開いた!
思い返せ!
俺はこの高校生活で何をしてきた!?
朝普通に起きて、普通に着替えて、普通にご飯食べて、普通に登校して、普通に勉強して、普通にシェイラ達と遊んで、普通に帰って、普通に風呂入って、普通に寝る!!
おい、これのどこが青春なんだ!?!?
どこにも甘い思い出がねぇじゃねぇか!?!?
俺は机に両肘をつき、体を丸め頭を抱き抱える。
「このままじゃ...人生に一度きりの青春を逃してしまう...!?」
マズイ、非常にマズイ...。
俺だって青春したい...青春したくなってきた...。
やべぇ...むちゃくちゃ恋愛したい!
むちゃくちゃ彼女が欲しい...!!!
青春のしたさに極限状態になった俺は、ふとシェイラの方へと再び視線を向ける。
「!?!?!?」
視線の先には笑顔で生徒達に対応するシェイラの姿がある...だが、おかしい。
「なんだこれは...シェイラが...」
そして俺は、ほのかに顔を赤らめる。
「むっちゃくちゃ可愛く見えるんだけど!?!?!?」
そう、あの幼馴染みのシェイラが、さっきとは次元が違うくらいに美しく、輝いて見えるのだ。
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