第3話 実際の本音

「やばい...シェイラが可愛いッッッ!!」


 誰にも聞こえないほどの音量でボソッと叫ぶ俺。


 今まではシェイラの事をただ幼馴染みの女親友としてしか見ていなかったし、恋愛などに全く興味がなかった。


 常に俺はマイペースで、自分のしたい事をのんびりとして、極普通に生活出来ればそれで満足するような人間だ。


 だが、それは俺が1人で居る時の話。


 シェイラともう1人、高校に入学してから知り合った親友が居るのだが、俺は基本的にシェイラとその親友の3人で居る事がほとんど。


 3人で居る時は、よくふざけたり冗談を言い散らかしたりして、すげぇヤンチャしてるんだ。


 当然、許容範囲内でな。


 そんなこんなで、1人の時はマイペース。

 3人の時はうるさいヤンチャな俺なのだが、とにかく楽しく日々を過ごせればそれで良いと言う思考を常に持っていた。


 つい、先ほどまでは...。


「クソッ! 何が日々楽しく過ごせればそれでいいだ! よくよく考えたら、表上はそうかもしれないが、裏面では全く違うだろうが!」


 そして俺の脳内には、過去に過ごした高校生活のある記憶の一部が蘇ってくる。


☆☆☆


 その記憶は高校1年の夏休み前の事、中庭に植えられている一本の大きな木の下で、3人でお昼のお弁当を食べている時。


「ん? あの2人って...」


 ほんの少し離れた場所に2人並んでベンチに座り、楽しそうにお弁当を食べている男子生徒と女子生徒の姿。


「あれは、隣のクラスの竹島たけじま若宮わかみやだな。ついこの間から付き合い始めたのだとか」

「わーっ! 素敵ですね! 竹島さんと若宮さんの恋がより良くなる事を祈るです!」

「そうだなー」


 俺は真顔でそう反応し、興味なさそうにお弁当を貪り食う。

 

 恋愛なんて興味ない。ただの時間の無駄だ。

 そう思っていた。だが、実際は違った...ただそう自分に思い込ませていただけなのだ。


(クソがよぉぉぉぉぉ!!! なんで付き合ってんだよ!? 青春謳歌してんじゃん!! クソがッ! クソめッ! リア充爆発しろぉッ!!)


 これが俺の本音である。非常に言葉が汚い。


「...滝斗、お前は本当に興味ないものには無関心だな」

「滝斗の先輩は、あのお二人のように恋愛とか興味ないのですか?」

「恋愛...? 興味ねぇえよ...んなもん」


 そう言ってはいるが、本当はめちゃくちゃ興味あります。めちゃくちゃ恋愛したいです。めちゃくちゃ彼女欲しいです。


「そんな事言うなよ。シェイラが悲しむぞ?」


 親友による突然の言い出しに肩をビクッと震わせ、顔を赤くして立ち上がるシェイラ。


「なっ!? 何を急に言い出すですか!? わ、私も恋愛には興味ありませんです! ラブコメ漫画は...興味あるですが...」


 人差し指と人差し指をちょんちょんと合わせながら恥ずかしそうにそう言う。


 当時の俺も、裏面ではめちゃくちゃ恋愛に興味はあったものの、シェイラを恋愛対象としては見ておらず、幼馴染みの親友として意識していた。

 この事に嘘偽りはない。


 だから、この照れているシェイラを見ても、本当に何も思わなかった。


 てか、そんな事よりもあの二人が楽しそうにイチャイチャしてるのが羨ましくて仕方なかった。

 なお、表面上では無心にお弁当を貪り食っている。


 それから...あぁ、もうその時はあのカップルが羨ましい事しか脳になかったからか、この辺から先が全く記憶にないや。


 そして、俺の脳内に蘇った記憶は徐々に幕を閉じる。


「なんだ? シェイラは滝斗の事が大好きだってい...」

「...っ!? ちょっ...言わないでくだ....」


☆☆☆


「んんー...最後なーんかあったような気がするけど...まいっか」


 過去に過ごした一部の記憶を少し振り返った俺。


 やはり、恋愛に対して表面上では興味がないと自分に思い込ませて過ごしていたが、あの時のカップルを見てから、俺も恋愛をしたい、青春したいって強く感じたんだ。


 それまでは、本当に考えもしてなかった。


 そんな気持ちを胸の奥底にしまって以来、月日が過ぎて今に至るって訳だ。


「はぁ...このままで居れば100万%彼女なんて出来ない。孤独に卒業式を迎えて社会へ出る事になる...」


 それは嫌だ...!

 人生1回きりのこの高校生活...青春して思い出を作らなければ一生後悔する!


 そんな未来を避けるには...俺の心の奥底にある気持ちを解放しなければならない。


「...よし、決めたぞ。俺は絶対卒業式を終えるまでに、彼女を作る!!」


 俺はグッと握り拳を作る。


 やはり、彼女を作るならめちゃくちゃ可愛い彼女が欲しいよな!

 そう、めちゃくちゃ可愛い彼女...


「ん? めちゃくちゃ可愛い...彼女...」


 俺はまたもや両目をパッと見開き、脳内に電流が流れるような感覚がした。


 めちゃくちゃ可愛いくて、綺麗で、俺を大切にしてくれそうな女の子...。


 俺はゆっくりと、自分の握り拳から徐々に窓側へと視線を向けた。

 その視線の先に居る女の子こそ、全ての条件に当てはまる存在。


「...シェイラだ!?!」


 そう、さっきから可愛く見えて仕方ないあのシェイラだ。

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