K点到達見込みです

「だめだめだめ!それ!外出たら即・事案だから!」

「どうして? 襲ってくる者がいるのですか?……さては、魔物か!」

「違う!通報されるの!!あと魔物とかじゃなくて、変態とかヤバい人間とか──」

「ふむ。なら蹴散らせばいいですね。レイネ、強いよん」

レイネは胸を張る。

彼シャツが苦しそうに伸びている。

「だめだってばー!!そういう物騒な世界観じゃないの!ていうか法律ッ!」

杏は頭を抱える。

言葉が通じるが意味が通じない異世界人って、会社にもいるよなと気づき、心を整える。


ふと、レイネの服の下の“装備”にも思いが及ぶ。

「ねぇ、下着は? あるの?」

「下着? の事ですか?」

「あ、多分違う。あってるけど、きっとちがう」

たぶん、と言って杏は続ける。


「そのアンダーアーマーは、着るっていうより、『装着そうちゃくする』でしょ?」

「はい。動きづらくなるので、好きじゃないですね」

あ、やっぱり。

「──その、装着じゃなくて、?」

「はい。無いですね。こちらの世界では必要なのですか?」

「超・必要だよ!?こっちは下着がないと、すぐに社会的に死ぬから!」

いったい、異世界人はどうやって生活しているんだ?杏は震えながら問うた。

「……サイズ、いくつ?」


「サイズ?」

首をかしげるレイネ。

「えっと……ブラジャーのサイズ」

「ブラ……?なんですか、それ?」

ますます首が傾くレイネ。

「……」

「……」

「……ほ、ほんとに現代人?」

「えーと、現代人、8時間目くらいですね!」

どや顔で答えるな。

杏は諦めた。


メジャーを手に取り、淡々と作業に入る。

「ちょっと測るよ。ジッとしててね……」

つめたいちめたい

「我慢して」


数分後。


ああ、なんていうのかな、──おじいGちゃん、叡知Hを超えた、Iを知る…ふと、杏の頭にそんな言葉がよぎった。

「もう少しでK点に到達ね……」

「ケイテン? どこかの拠点ですか?」

「違う。峰不二子よ」

伝わらないだろうが、杏は補足した。


──これはもう、実店舗じゃ買えないサイズだ。

杏はタブレットを取り出して、ネット通販でレイネのサイズに合う下着と服を爆速で注文した。

「あ、かわいい。これかわいい。これで買えるんですか?」と覗いてくるレイネ。

「こうして注文すると、明日には届くはず。たぶん……きっと……!」

「明日!?そんなに早いんですか! すごい魔法ですね!」

レイネは目を輝かせる。

「魔法じゃなくて物流の奇跡……!」

「ブツリュー? ブツ・ドラゴン?」

「違う。物を運んでくれる人たちのこと」

──そう。私たちの日常は、目に見えない誰かの働きに支えられている。

(ってか、ブツ・ドラゴンってなんだ?)


杏は画面を見つめながら、そっと手を合わせた。

「どうか……プライム、頼むぞ……」

しかし、その願いは現代の物流システムサプライチェーンでも叶えることはできなかったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る